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『流転の海』第一部,第二部は主人公の熊吾の豪傑かつエネルギッシュな造形にすっかりはまってしまい,それこそむさぼるように読んだ.近年創作力の衰えが著しいように思える宮本輝だが,『流転の海』のシリーズはかつての勢いはまだ消え去ってはいない.ただ戦後時代を経るにしたがって熊吾のスケールがどんどん縮小していってしまうのが,読者としても痛々しい感じがする.息子に対して説教臭い台詞を吐くことも多くなってしまった.近年の宮本作品の悪弊.戦後の混乱が収まるにつれ,どんどん時代と社会に追い込まれていく熊吾は「平凡な」父親となっていくが,にもかかわらずその格闘ぶりを描く筆は達者.熊吾があくまで輝の父をなぞっていくとなると,今後はさらに厳しい道が待ち受けることになる.楽しみなような気が滅入るような.