閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

嘘つき男

Le Menteur de Pierre Corneille

  • 演出:Jean-Louis Benoit
  • 出演:Loie Corbery, Elsa Lepoivre, Leonie Simaga, Bruno Raffaelli
  • 劇場:Comedie Francaise
  • 評価:☆☆☆☆★

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テクストは事前に通して読んでおいたけれど,やはり十七世紀前半の韻文は難しく,半分聞き取れたかどうかという状態だった.にもかかわらずスペクタクルは存分に楽しむことのできた舞台.舞台全体を上から下まで覆う黒くて薄いヴェールを自在に動かすことで,スムーズな舞台転換を行ったり,登場人物の心理的状態を暗示したりする他は,特に変わった演出をしているわけではない.舞台美術も簡素な書割が中心で,大がかりで派手な装置はない.照明も音楽も抑制されている.衣装はいかにも十七世紀風のもの.舞台の時間設定を夜に置くことで取り違えの状況に説得力を増していることも工夫か.
しかし十七世紀の喜劇,しかもいかにも人工的なコルネイユの台詞が,このような簡素な美術と衣装で,自然に聞こえ,現代の演劇としての魅力が十分に引き出されている丁寧な演出だった.オーソドックスならがら,ディテイルへのこだわりが要所要所でぴったりと決まっている感じがした.もちろんこうした演出が生きるのは,達者な役者がいてこそである.やはりコメディ・フランセーズの役者はすばらしい表現力を持っている.主役を演じたコルベリは,最初はおどおどと自分の心細さを粉飾するかのような態度だが,嘘を重ねるに従ってその態度がどんどん傲慢不遜なものになっている.演技の演出が実にデリケートなのだ.役者も演出家の演技プランに応えるだけの技術と想像力を有している.
観劇の喜び,充実感を感じることのできたレベルの高い舞台だった.