藤田嗣治(近藤史人編)(講談社文芸文庫,2005年)
評価:☆☆☆☆
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藤田が生前上梓した三冊の随筆集からの抜粋.文章は編者によって大まかにテーマ別,年代中に構成しなおしている.パリで華々しい成功を収めたエコール・ド・パリ時代の幸福な時代の記述がやはり一番読んでいて面白い.様々な文化摩擦やそしておそらく差別体験も数多く経験しただろうに,記述にはささくれだった精神の反映はみられない.異文化との接触を経てかえって,彼は異質なものを受け入れる大らかな精神の柔軟性と心持ちの優しさを手に入れたようだ.藤田については「おかっぱ頭」などの過剰な自己演出について言及しているのを読んだことがあるが,彼自身のエッセイの記述からは「個性」と「独創性」の獲得についての彼の誠実な格闘ぶりが伝わってきて,自己顕示のいやらしさはそれほど感じない.
北京に滞在したときに感じた中国文化についての視点も,驚くほど公平であり,彼が異国生活の格闘の中で獲得した,当時の日本人としてはおそらく例外的だったであろう理性的なバランス感覚に驚嘆する.
今月末から東京国立近代美術館にておそらく日本ではじめての大規模な藤田嗣治展が開催される.
http://www.momat.go.jp/Honkan/Foujita/index.html