ヨーロッパ企画 第20回公演
- 作・演出:上田誠
- 美術:酒井善史,井上能之,大歳倫弘
- 照明:松谷将弘
- 出演:中川晴樹,酒井善史,諏訪雅,永野宗典,松田暢子,山脇唯,石田剛太,本多力
- 劇場:新宿 THEATER/TOPS
- 評価:☆☆☆☆
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極端に狭苦しくかつ独創的な間取りのスラムの住民の生態観察.特殊な望遠カメラとつながったパソコン・ソフトウェアを使ってこのスラム内部を遠方から覗き見するという趣向.二人の観察者によるスラムへのコメントが観客の視線を誘導する.
奇矯なスラム部屋の造型が独創的で面白い.極端に狭いスラム部屋での生活を特に不満なさそうに受け入れる住民たちもそれぞれやはり奇妙である.一組の夫婦の喧嘩を含むやりとりなど不条理なレベルで特殊な状況がもたらす僕好みのギャグがいくつもあったのだが,一通り部屋と住民の紹介が終わってしまうと劇進行は停滞してしまう.後半は若干退屈を感じる.
近未来という時間設定は,この芝居に関しては不要であるように僕は思った.近未来という時代設定はお約束なのだろうが,この作品ではこの「習慣的」設定が足をひっぱっていて,作品を安っぽくしていたように思った.最後のオチも,おそらくこの脚本家の気質として説明をつけなければ気が済まない性分なのだろうが,僕には余分に感じられた.異常に狭苦しい住居という点では坂出洋二の『屋根裏』を,一つの建物で同じ年代の少々エキセントリックなところのある若者が共同生活するという点ではクラピッシュの『スパニッシュ・アパートメント』を,日常生活の覗き見ということでは先日観たポツドールの『夢の城』を連想した.もちろんヨーロッパ企画の『Windows5000』も含め,これらの作品の風味は全く異なるのではあるが.
発想が独創的で,ギャグも洗練されているが,中庸にまとまりすぎているような印象をこの劇団には持つ.清水義範のいくつかの小説のような,あるいはよくできたミステリーのような,きわめて技巧的ではあるけれどそれゆえ人工的すぎて現実を脅かすような凄みに欠ける.もっともそういうバランス感覚のよさがヨーロッパ企画,上田誠の持ち味なのだろうが.
アジア系住民への他の住民による差別的言辞を巡るギャグが,そのギャグの内容同様,作品の「スパイス」としてよく効いていたように思う.