TPT 第54回公演
- 作・演出:ルネ・ポレシュ Rene Pollesch
- 訳:本田雅也
- 日本語台本:木内宏昌
- 美術:ヤニーナ・アウディック
- 照明:笠原俊幸
- 衣裳:原ますみ
- 出演:池田有希子,木内みどり,中川安奈,長谷川博己
- 劇場:森下 ベニサン・ピット
- 評価:☆☆☆
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現在ドイツで注目されている若手劇作家・演出家の作品.
以下ネタバレあり.
舞台は観客との対面式ではなく,いくつかの空間で構成される複合舞台.観客席はアルファベット大文字の「L」の形に設置されている.このL字の内側に,安っぽいエメラルドグリーンの瓦の屋根を持つ,3メートル四方の正方形の,壁のない茶室のような舞台が設置されている.その後ろ側,通常の舞台の位置には細い通路を隔てて工事用の青いシートが張られ,その裏側に楽屋のような部屋が二部屋ある.ただしこの青いシートは基本的に閉じられたままで,観客はその内側を「間接的」にしか知ることができない.「茶室」の隣,「L」字客席の縦の棒の正面には映像用の巨大なスクリーンが張られている.L字の交差部分にも高い位置に演技空間が設置されていて,そこは歌唱ショーのステージのような使われ方をする.
上演時間二時間のうちの2/3は役者の演技の大半は,手持ちビデオカメラの映像が映されたスクリーンを通して,観客に伝えられる.役者の動きは観客は追うことができるのだが,演技の大半は,青いビニールシートの奥にある「楽屋」で行われてるため,観客は必然的にスクリーン上の映像に注視するはめになる.
最初の2/3は,五分ほどの長さの二種類のパターンが交互に演じられる.ひとつはささやき声でマイクを通して,「くそ」や「ファック」や「金」といった単語のやりとりが延々続く.もう一つは英語のポップソングに合わせた猥雑な雰囲気のレビュー.細部に違いはあれど,基本的に同一のパターンが延々と繰り返す.最後の30分でようやく生身の役者の演技が中心,つまり通常の芝居スタイルになる.台詞のやりとりはマイクごしのささやき声から怒鳴り合いへと極端に変化する.乱暴で猥雑な言葉のやりとりは終始一貫している.
攻撃的・前衛的な作品だったが,全裸で性器むきだしでうろうろとするポツドールの芝居を見た後だけに,役者のいじめ方が中途半端に感じられる.生々しい性的な言葉の投げ合いは,それを演じる役者自身の生の存在を揺るがすようなリアルな迫力が欲しい.「ファック」という言葉も日本語の中では聞こえても,他人行儀で気取った感じさえしてしまう.やはり「おまんこ」「おめこ」あるいは単に「セックス」とか,いずれにせよもっと身も蓋もない語彙を投げ合わなければ物足りない.そして「金」「セックス」「くそ」といった言葉が強迫観念のように執拗に繰り返されるこの芝居では,やはりせめて全裸になって役者が絡み合うぐらいの覚悟を見せないと,役者や観客の現実存在自体には絶対かかわってこないような安全圏に身を置いて言葉遊びをしているだけに僕には感じられた.
最後の方で送風機で緑色の大量の小紙片を上方に飛ばすシーンはとても美しく印象的だった.
筋のない,繰り返しの細かいバリエーションを重ねた作品だが,二時間退屈はしなかった.
客席7割の入り,70名ほどで空席がちらほら.