佐江衆一(新潮文庫,1996年)
評価:☆☆☆☆
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痴呆老人となった親との同居で生じうる介護や人間の尊厳の問題を,痴呆老人の殺人事件というミステリー小説の形式を通して描く傑作.
老人の痴呆と介護,そして人間の尊厳の問題は,やはりミステリー小説仕立てで大西巨人が書いた小説を読んだことがある.強靱な知性と倫理を持つ大西巨人がこの推理小説(『迷宮』http://d.hatena.ne.jp/camin/20041110/p1)の中で提示した解答は意外なほど短絡的で安易であるように僕には思えた.
佐江は老人の肉親の問題を『黄落』という傑作で扱っている.『黄落』は『老熟家族』より私小説的性格が強いが,実父母の老いと痴呆にふりまわされつつも,かすかな希望のようなものも示されている.
『老熟家族』は本格派ミステリーとしても非常によくできた作品だと思う.しかしその題材のリアルさ,深刻さが,推理小説的な謎解きの面白さを圧倒している.この小説で佐江が提示した老人問題への答えは陰鬱で絶望的な色が濃い.この小説の読者は必ず,近い将来,自分の親が急速に老け込んでしまった時,自分はそれをどのように受け止めることができるだろうかという問いに直面させられ,暗い気分に陥るだろう.そしてこの問いに対する楽観的な回答はごく少数の例外を除きおそらく存在しないのだ.