閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

激情

ポツドール vol.16
http://www.potudo-ru.com/index2.html

  • 脚本・演出:三浦大輔
  • 照明:伊藤孝
  • 美術:田中敏恵
  • 衣裳:金子千尋
  • 出演:安藤玉恵米村亮太朗町田マリー,古澤裕介,小林康浩,脇坂圭一郎,玄覺悠子,井上幸太郎
  • 上演時間:2時間20分
  • 劇場:下北沢 本多劇場
  • 評価:☆☆☆☆
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[注:作品内容に触れています]

田舎町のよどんだ人間関係のなかで露わになる差別感情や性の問題を戯画的・露悪的に描いた黒いウェルメイド・プレイの秀作.最近はごくまれにしか目にしないが,「民度が低い」というそれ自体差別的なニュアンスを含む表現がぴったりはまるような芝居だった.
結末の唖然とするようなあからさまな悪趣味には思わず爆笑してしまう.田舎の「後進的」な人々の生態を嘲笑する観客の側の差別意識をもちくちくと刺激する後味の悪い内容の芝居である.人間の抱える無自覚な悪意の深さを,エンターテイメントの形で提示する脚本は非常によく練られたものだ.
性的な問題にまつわる人間の浅ましさとナサケナサ以外に,障害者,部落に対する差別意識の問題が作品の通奏低音として鳴り響いている.特に部落差別の問題はよどんだ人間関係の歪みの核となっていることが最後にわかる.

舞台美術は田舎町にある古びた一軒家の二間が舞台中央に超写実的に再現されている.舞台右手は家の外側で,納屋風の建物に原付バイクが駐車されているのが見える.その後ろ側には家を囲む生け垣と木々が植えられている.
借金苦による両親の首つり自殺というショッキングな場面から芝居は始まる.導入部のあと,時間は一年後に移る.両親が残した借金の大きさに絶望した一家の一人息子は,農協勤務の人妻との不倫で鬱屈を発散するだけの自暴自棄の日々を送っている.そんな彼の自堕落を,同じ町に住む同級生と先輩は借金の一部を肩代わりすることで,立て直そうとする.一人息子も退廃から立ち直ることを一度は決意するのだが…… 秋が過ぎ,冬になると閉鎖的な人間関係はまたよどみ,退廃の香りを放ち始める.恋愛をめぐる殺伐としたやりとりのあと,最終的にはやはりやりきれない絶望へとまた回帰していく.冬になると,雪が降り始める.その深々とした降雪のリアルなさまに目を奪われる.幻想的ではなく,むしろ田舎家の寒々とした雰囲気を深めるような降雪だった.

堅実ではあるがサプライズは乏しい舞台であった.きっちりまとまり過ぎている感あり.説明過剰気味で,極度に悪趣味な商業演劇といった趣きもあり.十分に楽しむことはできた舞台ではあったが物足りなさも感じる.
このところ,松井周作・演出「シフト」,山下淳弘監督「松ヶ根乱射事件」と,閉鎖的田舎町の後進性を意地悪く嘲笑する作品の秀作を続け様にみたこともあり,その分『激情』の印象も弱まってしまった感じ.