閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ヒトガタ

グリング
http://www.gring.info/0nxt/f_nxt.html

  • 作・演出:青木豪
  • 照明:清水利恭
  • 美術:田中敏恵
  • 音楽:DubRIN' 峯岸信太郎
  • 出演:中野英樹、弘中麻紀、井出みな子、石井英明、萩原利映、歌川椎子、遠藤隆太、杉山文雄、高橋理恵子
  • 上演時間:1時間40分
  • 劇場:新宿 THEATER/TOPS
  • 評価:☆☆☆★
                                      • -

グリングの公演を見るのは今回が初めてである。前から見てみたかったのだが、タイミングが合わなかった。
『ヒトガタ』は2003年に初演された作品で今回は再演。演劇集団円所属の高橋理恵子がこの舞台に出演することを知って、発売日当日にチケットを予約した。最前列正面席、間近で高橋理恵子を見ることができ大いに満足する。
マチネ公演を見たが客席は8割ほど埋まっていた。

よく練られたホームドラマといった感じの作品だった。一幕もので通夜での人間関係が描かれる。古ぼけた内装、家具のごくありふれた室内。
ダイアローグはとても丁寧に作られていることがわかるが、人間関係の対立の図式、ドラマの設定などがあまりにも楷書体できちんと作られているような印象で、展開に意外性が乏しい。ボケた老婆を邪魔者扱いするシーンの痛々しさや父親の不倫の問題、自閉的な隣人など、抵抗を与える居心地の悪さがちりばめられているものの、そうしたえぐみは深められることのないまま美しく優しい結末に進むことに不満を感じた。

印象に残る役者が数人いた。特に主人公の妻、年齢設定は30代後半、を演じた弘中麻紀(ラッパ屋)の地味素朴系のコケットリーはとても魅力的だった。ひらめ系の普通顔なのだけれど、なんとも言えぬ愛嬌がある。
高橋理恵子様の美貌は戦慄ものであった。通夜の礼服姿の彼女が醸し出す微かなエロティシズムと妖気の素晴らしさ。完璧な美人顔というよりは、若干ゆがみのようないびつが漂う顔立ちなのだが、その美しさは独自のオーラを放つ。彼女を間近で見ることができただけでも、今日この芝居を観た意味があったというもの。地方の進学校の美人優等生がそのまま崩れることなく中年になったような感じの美しさであった。
どもりの青年社長を演じた杉山文雄は、人物の性格のよさを巧みに伝える名演だった。ほんわかした雰囲気にも関わらず、この役者の間の取り方の絶妙さにしばしば大笑いさせられる。