シェイクスピア・シアター
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- 原作:夏目漱石
- 脚本・演出:出口典雄
- 照明:尾村美明、秋草清美
- 衣裳:上地洋子
- 音楽:福島一幸
- 出演:平澤智之、得丸伸二、住川佳寿子、穴倉暁子、佐々木暁子、木村美保、松木良方、吉澤希梨
- 上演時間:二時間三〇分(休憩一〇分を含む)
- 劇場:六本木 俳優座劇場
- 評価:☆☆☆☆
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着物姿の数人の朗読者がコロスの役割を担い、原作の地の文を群読する。
照明は全般に暗めに抑制され、舞台上では幻夢的な雰囲気が支配する。舞台美術は机などごく最小限のものしか用いられず、背景は黒幕で覆われている。このシンプルな美術が、舞台上の出演者とともに力強い洗煉された美しさを作り出していた。
前半一時間は単に工夫の少ない朗読劇に思え、昼御飯を食べた直後の観劇という条件も重なり、単調さを感じ眠ってしまったところもあったのだが、「先生」の手紙を再現した後半部はドラマの展開の激しさに引き込まれる。「私」役の俳優(平澤智之)は、手紙の中の先生の回想の再現でときに「先生」となり、それを別の先生役の役者が外側から見つめるという重層構造が、演劇的処理で見事に表現されいた。主演の平澤智之はほんとうに素晴らしい。彼の役者の能力の多彩さに今回も引き込まれてしまう。二枚目の気取った演技だけでなく、コミカルでかなり不自然で無理のあるような演技演出の消化の仕方もとてもうまくて、またそうしたシーンで魅せるのだ。客演で先生役を演じた得丸伸二と未亡人役の吉澤希梨も役柄にぴったり嵌っていて、舞台に安定感を与えていた。
『こころ』の原作を最後に読んだのは大学学部生のころだと思う。高校生のころにも確実にこの小説を読んでいるが、こんなに激しい嫉妬と愛情、そして絶望的な虚無の物語を、当時の僕はどう読み取ったのであろうか。
シンプルなシェイクスピア・シアターの舞台は、原作のエッセンスをしっかりと伝え、こちらの想像力を強烈に喚起する。また原作を読んでみたくなった。七月中旬にこまばアゴラ劇場で龍昇企画による『こころ』の再演がある。原作を読んだ上で、二つの公演を見比べたい欲求にかられる。
ずっしりとした余韻を残す、充実感のある舞台だった。