閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ラスト、コーション

http://www.wisepolicy.com/lust_caution/
ラスト、コーション(2007) LUST, CAUTION 色・戒

日本軍の勢力下にあった1940年代はじめの香港と上海が舞台。
抗日組織に属する女スパイは、日本軍の手先となって抗日ゲリラを抑圧する特務機関のリーダーに接近し、彼を暗殺する機会を狙う。しかし流動する情勢の中で生き残るために多くの人間が神経をすり減らして互いを監視しあっていたこの時代、特務機関のリーダーである彼は慎重でなかなか隙を作らなかった。抗日運動の側の人間がどちらかというと状況認識に甘さがあるのに対し、抗日組織の標的となると同時に日本軍とも息の抜けない駆け引きを経験している特務機関の人間のほうが修羅場をくぐった人間のしたたかさとたくましさを持っている。
女スパイは身体だけでなく、その心までこの男に託することで、彼の内側に入り込み、彼の暗殺に必要とされる隙を作り出そうとする。スパイ活動は彼女の全存在を賭けた行為となる。そして男もまた、極端な緊張が続く生活のなか、女との恋愛に自身全体を賭ける。一歩間違えば自らに死を招くようなぎりぎりの状況で、二人の恋愛は激しく情熱的なセックスという形で描き出される。

性描写の過激さゆえにR-18指定となった映画。しかし映画の主題からいうと、性行為の場面はもっと執拗で長くてもよかった。ヒロインを演じたタン・ウェイはまさに体当たりの熱演ぶり。興奮で硬く肥大した乳首に女優根性を感じた。鼻の下の溝がくっきりした彼女の顔の作りも個性的でとてもかわいらしい。
濃厚な性愛を描きつつ、その背景となっている時代の雰囲気がきっちり伝わる作品となっている。戦前の上海の街の再現もとてもよくできている。とりわけ秀逸なのは最後のいくつかの場面である。女スパイが「逃げて」と思わずつぶやいた後の、男の疾走する様子や、その後、女が人力車に乗って戦時のものものしい上海の街を呆然とめぐる場面がとりわけ強い印象を残す。