閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

聖地

さいたまゴールド・シアター第4回公演
http://www.saf.or.jp/gold_theater/index.html

  • 作:松井周
  • 演出:蜷川幸雄
  • 美術:安津満美子
  • 照明:岩品武顕
  • 音響:金子伸也
  • 振付:ヒ素秋うらん
  • 音楽:かみむら周平
  • 出演:さいたまゴールド・シアター
  • 上演時間:3時間20分(休憩15分)
  • 劇場:さいたま 彩の国芸術劇場
  • 評価:☆☆☆☆★
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さいたまゴールド・シアターは今回が初見だった。

近未来の日本が舞台。この日本では70歳を超えた人間は自死もしくは他人による安楽死を選択することができる。人生の最後のときを過ごすとある山中の老人介護施設がある日、その施設で不審な死をとげたかつてのアイドル歌手のファンクラブのメンバーによって占拠される。彼らは自分たちのアイドルの死を不審を抱くだけでなく、かつての姨捨山を正当化するような老人政策にも異議申し立てを行う。死んでしまったアイドル歌手は彼女と同室であった痴呆症の老女に「憑依」してしまう。このアイドルを核にこの介護施設は最後のときの居場所を求め彷徨する老人たちの「聖地」となっていく。

40名を超える老人役者たちの演じる役柄をしっかり描き出す脚本の巧みさ、スペクタクルと抒情性豊かな演出の見事さ、老人俳優たちの存在感、そしてさいたまゴールド・シアターという発想の奇抜さとその意義など、いろいろなことに感心しながら芝居を観ていた。サンプルでは趣味的なアブノーマルな世界をひたすら深化させていた松井周がここでは依頼に応え、その独自の変態的美学を隠し味としつつも、より公共的でスケールの大きさを感じさせる戯曲を書いていることに驚いた。そしてその戯曲と老人役者という特殊な属性を見事にリンクさせ、ドラマチックで見応えのある舞台を作り上げた蜷川幸雄の演出手腕は本当に素晴らしい。

自分ではまったく予想外のことだが最後のほうの場面では芝居自体にガツンと感動させられてしまった。うーん、まいった、やられた。あの美しさがせまってくるのに思わず泣いちゃったよ。荒涼とした悲劇的結末にかすかに灯された希望の光のなんと切なく美しいことか。
松井と蜷川の組み合せでまさかこんな作品ができるとは。文字通り劇的な化学反応と言うべきか。