- 作・演出:フランソワ・ジラール François Girard
- ディレクター:リン・トランブレー Line Tremblay
- セット・デザイナー:フランソワ・セガン François SÉGUIN
- 衣裳:ルネ・アプリル Renée April
- 作曲・編曲:René Dupéré
- 照明:ヂヴィッド・フィン David Finn
- 振付:デボラ・ブラウン Debra Brown、ジャン=ジャック・ピエ Jean-Jacques Pillet
- 上演時間:90分
- 劇場:舞浜 シルク・ドゥ・ソレイユ シアター東京
- 評価:☆☆☆☆☆
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『ZED』の公演は一年半前に一度観て、その目がくらむような豪華さに心奪われた。その勢いで『クーザ』のチケットを衝動買いして、この二月に娘と一緒に観に行った。 『クーザ』も面白かったけれど、公演専用の常設劇場での公演である『ZED』のほうが演出上の仕掛けも凝っているし、プログラムの構成もより一貫性があって私は好きだ。『ZED』はおそらくこれまで私の見たことのあるスペクタクルの中でも格段に贅沢なものだと思う。
開演10分ほど前から、二人のクラウンが客席を動き回り、客いじりを始める。この二人のクラウンが『ZED』の物語の外と内をつなぐ存在となる。舞台上には一冊の大きな本が置かれ、その本のページをクラウンが開くと『ZED』の物語が展開しはじめる。『ZED』とはこの驚異の物語の案内役の少年の名前でもある。
オープニングの演出は圧巻だ。会場全体は白い巨大な布で覆われているのだが、本が開かれると上空から登場したZEDが垂直にすとーんと地面に向かって落下する。奈落が開かれ、そこにZEDが落ちると、床から天井まで一面を覆っていた白い布がしゅるしゅるとその穴に一気に吸い込まれていくのだ。本当にこのオープニングは息を呑むほど素晴らしい。あまりに凄すぎて思わず鼻水、涙が噴出してしまう。
後は90分にわたって、多彩で見事な身体的パフォーマンスのバリエーションが続く。各部分の技術は超一流のパフォーマーによるアクロバット技芸が基本となっているが、音楽、照明効果、化粧、衣裳などの計算された音楽・視覚的効果が、その至芸をさらに美しく、独創的なものにする。そして各パートのコンビネーションも絶妙で、全体として一つのまとまりのある神秘的な幻想世界を作りだしている。重厚さ、崇高さを感じさせる見事なアクロバット芸は、見ていると息をするのも忘れてしまうほどだ。そうした緊張感あふれるパフォーマンスの間には、クラウン二人によるファルスが挿入され、緩急のリズムを作りだしている。
最後は魔法の本が閉じられることで、この壮大な幻想劇は幕を閉じる。一度世界が平常に戻り、静まりかえったあと、全パフォーマーが舞台上にわらわらと現れて繰り広げるフィナーレは実に感動的なものだった。 90分で15000円と、私とすれば不相応な高額パフォーマンスではあったけれど、あの目眩のするような贅沢な時間の対価としては、必ずしも高いとは思えない。サド侯爵の『悪徳の栄え』という作品タイトルが思い浮かぶような、豪奢なショーだった。こういった見世物を楽しむのには何となく背徳感さえ感じてしまう。
大晦日の大千秋楽は、どんな盛り上がりになるだろうか。格別の祝祭的非日常を楽しむことのできるショーであるが、日本では観客層が限られていたためか、結局三年半で、劇場を閉じることになってしまった。