Camille Boitel L'immédiat
- 構成・出演:カミーユ・ボワテル、 アルド・トマ、 パスカル・ル・コー、トマ・ド・ブロワシア、マリオン・ルフェーヴル、ミッシェル・フィリス
- 照明デザイン:ブノワ・ファンケール
- 劇場:池袋 東京芸術劇場プレイハウス
- 上演時間:80分
- 評価:☆☆☆☆
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フランスのヌーヴォー・シルク(新しいスタイルのサーカス)のカンパニーの公演。チケット代が3000円、高校生以下は1000円と安いので、少数のパフォーマーのアクロバティックな身体表現を演劇的に構成したシンプルな舞台を予想していた。
ちなみに「リメディア」と別日に行われる「夢見るための50の方法」を合わせて買うとチケット代は2800円となり、単独でチケット購入するより安くなるという不思議な価格設定が行われている。
会場が中劇場にあたるプレイハウスというのがまず意外だった。劇場入口で確認するまで、小劇場の地下のシアターイーストかウェストでの公演だと思っていたのだ。そして実際の舞台も、パフォーマーは6人だったが予想していたよりもはるかに大がかりで凝った舞台だった。
素晴らしかったのは最初に上演された20分ほどの演目である。プレイハウスの広い舞台にガラクタが積み重なり、中央部には今にも崩れそうなぼろぼろの室内が作られている。パフォーマーたちは疲労の極の状態にあるようなよたよたした様子で舞台上を動木回る。すると彼らの移動する周囲にあるあらゆるものがことごとく連鎖的に崩れ落ちていくのだ。設置されていた室内セットはもちろん、そのなかに置かれているあらゆる小道具、吊されている照明、左右と背景の幕などありとあらゆるものが、およそ20分間のあいだ崩壊し続ける。その徹底した崩壊ぶりのスケールは圧巻としかいいようがない。パフォーマーたちはアクロバティックな動きと見事な連係で、崩壊を誘発し、崩壊から身をかわしていく。
この最初の演目が破格に素晴らし過ぎたのだ。フランスのヌーヴォー・シルクというのは、こんな怪物みたいな進化形を生み出しているのかと、圧倒された。見事な崩壊の場面では会場からしばしば拍手がわき上がった。この「崩壊する世界」が一段落すると五分間の休憩が告げられ、ガラクタが積み上がった舞台上は猛烈な勢いで片付けられた。
「崩壊する世界」のあとの演目も悪くはない。複数の移動する黒幕といくつかの古ぼけた家具を使って、シュールでユニークなアイディアが詰め込まれた隠喩的パフォーマンスが続く。タイトルを付けるとすれば「複数の人物に侵入された家」とか「反重力の机」、「怪力の女」など。しかし音楽をほとんど使わない、暗い舞台で演じられるそれらの演目は、趣味はいいけれど、ストイックすぎて地味に感じられる。冒頭部の「崩壊する世界」のインパクトがあまりにも強すぎたからかもしれない。一番最後に演じられた、ガラクタを積み上げて不安定で巨大なオブジェを舞台中央に構築するパフォーマンスは、完成したオブジェはインスタレーションアートとして面白いものだったけれど、徹底した破壊が持続的に行われる「崩壊する世界」の迫力にははるかに及ばないものだった。