閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ヘンリー六世 第二部 敗北と混乱

新国立劇場
http://www.atre.jp/henry/

だんだん作品の世界に、歴史劇の時間に、こちらの感覚もなじんでくるのがわかる。私は別々の日にこの三部作を見るのだけれど、やはり三部作通しで見たほうが『ヘンリー六世』はより楽しめるように思える。
第一部も思いの外面白かったが、第二部はさらに楽しんで見ることができた。
前半と後半、密度の高い心理劇と象徴的表現をうまく使ったスピード感のあるスペクタクルの対比が効果的に決まっていた。前半部では政争のなかで様々な人物の個性が描き出されるが、主人公はマーガレット王妃だ。フランスから、ほとんど身一つの状態でイングランド宮廷にやってきた。宮廷のなかで心を許すことができるのは自分をヘンリーに引き合わせたサフォーク伯のみ。夫であるヘンリー六世の立場は不安定で頼りにならない。この心細い状況のなかで自分の居場所を確保するために、彼女は権謀術数のあやうい綱渡りをしながら、必死で戦っていた。ことば一つが命取りになりかねないスリリングな状況が、濃密な会話劇によって提示されていた。
スペクタクルが中心の後半の主人公は、平民反乱の長、ジャック・ケードの活躍ぶりだ。立川三貴によるケードの人物造形に笑わされる。奔放で自由なエネルギーに満ちた喜劇的な人物としてケードは提示される。大きな旗を広い舞台に巡らせることによる合戦の象徴的表現も見事だった。

新劇系の役者が多いが、新劇風の演技がシェイクスピア歴史劇とうまく調和して、ほどよい様式感を作り出していた。貴族たちを演じる役者たちは貴族らしい仰々しさをしっかりと表現しつつも、台詞の流れ自体は軽やかで翻訳劇特有の空々しさはあまり感じなかった。