閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

効率の優先

城山羊の会

  4月に新国立劇場で企業の研究所を舞台とした『効率学のススメ』という似たタイトルの芝居を観た。同じくオフィスを舞台としているけれど城山羊の会『効率の優先』は、黒くてシニカルなギャグが詰め込まれた不条理劇だった。

 三人の女優の醸し出す雰囲気の異常さが、作品全体に漂うエロスの源になっている。日常のなかでふと沸き上がるささいなエロ妄想をグロテスクに拡大し、顕在化させたような作品だった。女性へのエロ視線は極めて男性的なものであるように思ったのだが、女性の観客はどう受けとめたのであろうか。狂気へのエスカレートの仕方は、筒井康隆のいくつかの小説および戯曲やイギリスのドタバタ茶番喜劇を連想させる。しかし筒井やイギリス喜劇は、ドタバタであっても戯曲としてしっかりと構築されたウェルメイドだった。山内ケンジはウェルメイドであることを拒否し、むしろ作品構造のゆるさ、微妙なずらしとちぐはぐさを生かした劇作である。確信犯としてのぬるさ、ばかばかしさの徹底が、間の抜けた脱力的な世界を作り出している。その外し方には洗練された技と計算が感じられる。そして観客に共犯意識を抱かせるような絶妙の悪意も。 

 すらっとした女性の松本まりかが美しい。病的ともいえる痩せすぎ美女、吉田彩乃のコケットリーのいびつさの表現に潜む黒さがとてもいい。観客の性的妄想を喚起する不健全な記号的存在になっている。 

 登場人物のやりとりは、われわれの(というか「私の」と書くべきか)心の中でふと思い浮かんでしまうような他愛のない(人前ではとても口にできないような)妄想的言辞が、どんどんエスカレートし、エキセントリックな状況が生じさせるような感じ。

 

筒井康隆の熱狂的ファンだった高校時代の私が見れば、夢中になったように思う。 今はこうしたスカした確信犯的不条理がしっくりこない。退屈はしない。何度も大笑いした。でもある種の嗜好へのお約束サービスを巧みに配置した職人芸的作品だと思った。