演出・上田一軒
照明:岡田潤之
舞台監督:青野守浩
音響:星野大輔(サウンドウイーズ)
出演・緒方晋(The Stone Age)、村上誠基、福谷圭祐(匿名劇壇)
劇場:三鷹市芸術文化センター 星のホール
評価:☆☆☆☆☆
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南多摩演劇部は三年前に生徒たちによって設立された部員10名の小さな演劇部だ。
女子高生の俳優による「ピロシキ」と「煙草」、「B級ホラー映画」についての作品の上演を見てきた。いずれも不条理ファルス。上演中何度も大笑いした。観客の誰もが、ピロシキを食べながら、かぎ煙草を嗅ぎ、クソみたいにつまらないB級ホラーを見たくなるような公演だった。上演後、彼女たちの「演劇大好き」という思いの強さに心打たれて泣きそうな期気分になった。三年前にこの演劇部を立ち上げた三年生にとってこれが最後の校内公演となる。演劇に対する彼女たちの思い入れが、演劇部に対する愛着が、この公演には凝縮されていることを感じとることができた。
私がこの公演を八王子まで見にいこうと思ったのは、15年にわたって埼玉県東部の宮代町をベースに、平原演劇祭と称する地域演劇祭を個人でやっている劇詩人・演出家、高野竜の新作戯曲が上演されると聞いたからだ。三年生部員の一人が来月開催される平原演劇祭2016年第一部で上演される高野竜作の一人芝居『詩とはなにか』に出演するつながりで、今回、高野竜の新作が上演されることになったようだ。
出演者は3年生が二人、二年生が一人、一年生が二人。俳優は全員が女子だった。残りの5名の部員が演出、音響、照明、制作を担当する。日曜日の学校内での公演で、大風の天候だったにもかかわらう、学校外部からの観客もかなりいて、50名分用意したという客席は満席だった。
演目は二演目。中野守作『ピロシキ』と高野竜作『煙草の無害について』。高野の『煙草の無害について』は「煙草の無害について」と「ねと☆ぼん」という内容・形式ともに共通点がどこにあるかわからない二つのパートで構成されている。
最初に上演されたのは中野守作『ピロシキ』だった。『ピロシキ』は10分ほどの作品である。中野守は2003年に中野劇団を立ち上げ、関西を中心に公演を行っている演劇人だ。http://www.nakanogekidan.com/index.html 長編数作を含む80以上の脚本がウェブ上で公開されていて、なかでも『ピロシキ』は200を超える団体によって上演される人気作のようだ。登場人物は医者と患者の二人。患者のじん臓のひとつが「ピロシキ」になってしまったという話だ。医者の態度は基本的にひょうひょうとした態度で、患者のじん臓がピロシキになってしまったことを面白がっておちょくっているような感じもある。患者は自分のじん臓のひとつがピロシキになってしまったという事態を冷静に受けとめることなどできるはずがない。医者の無責任な言動に戸惑い、次第にいらだちが増大していく。ぼけとつっこみの応酬がテンポ良く行われる漫才のようなコントだった。表情をあまり動かさない医者の芝居はバスター・キートン風。これに対し患者はとまどいや怒りで表情がくるくる変化する。患者は診察を受けに来ているので二人は向き合って話しているはずなのだけれど、上演では二人とも客席のほうを向いて会話を交わすという演劇的表現によって不気味な不条理感が増していた。
『煙草の無害について』はもちろんチェーホフの一人芝居『煙草の害について』のパロディである。女子高生俳優があえて煙草についての芝居を演じるというちょっと挑発的なひねりがポイントだ。三人の演劇部員の女子高生が登場人物なのだが、この三人がいかにして高校で自分たちが『煙草の害について』を上演したものか知恵をしぼる。チェーホフがこの作品を書いた当時、紙巻き煙草はまだ普及していなくて、副流煙の害なども知られていなかった。そもそもチェーホフの作品で問題になっていたのは当時流行っていた嗅ぎ煙草であり、煙の害はない。
それではなぜこの作品の語り手のイワンは煙草の害を語るはめになったのか。今の日本の高校で、この作品を上演するにはどういう工夫が必要となるのかなど。高野竜の『煙草の無害について』は過剰な嫌煙社会となってしまった今の日本社会のあり方への風刺である。しかし同時にチェーホフの作品の解釈の提示であり、そのファルスの風刺精神への優れたオマージュとなっている。三人の女子高生演劇部員の名前はオリガ、マーシャ、イリーナであり、『三人姉妹』のイメージも彼女たちの言動には投影されている。演劇部員である現代の女子高生たちのアクチュアリティとチェーホフの二つの作品の世界をオーバーラップさせるという発想とそれを説得力のある作品として提示する技巧の見事さに感嘆する。高野竜の『煙草の無害について』は傑作である。
『煙草の無害について』では中央に、スリッパをマイクカバーとしたスタンド・マイクが設置されていて、劇中劇的場面はこのマイクを使って演じられることがあったのだが、『煙草の無害について』に引き続いて上演された『ねと☆ぼん』でもこのマイクがそのまま使われる。『ねと☆ぼん』は漫才仕立ての二人芝居で、そのやりとりは関西弁で行われる。『ねと☆ぼん』では、エド・ウッド脚本による『死霊の盆踊り』というB級ホラー映画の紹介が漫才仕立てで30分にわたって延々行われるという奇天烈な作品だ。『ねと☆ぼん』は造語で、「ネット上で盆踊りについて発信する個人ないし集団。実際に盆踊りをする行動力がないことを揶揄してこう呼ばれることが多い。」を意味する。「ウンコを90分見つめている方がまし」という伝説的なクズ映画『死霊の盆踊り』がいかに愚劣でくだらない作品であるかが的確に伝ってくる怪作。女子高生俳優二人による見事なプレゼンテーションにこのクズ映画をレンタルして見たくなってしまう。
フィナーレの挨拶は感動的だった。一所懸命やりきったことが言葉と表情から伝わってきた。作品を完成度の点から見るとまだまだ大いに改善の余地のある舞台ではあった。しかし高校生俳優にしかない魅力、高校生俳優にしかできない演劇があることを確認することができる素晴らしい演劇体験だった。
今日の公演に出た女子高生俳優は、来月22日に是政のカフェで行われる平原演劇祭で、高野竜作の一人芝居『詩とは何か』に出演する。『詩とは何か』は女子高生だけが演じることが許された作品であり、高野竜の数多い作品のなかでも最も美しい傑作だ。今日の公演を見て、私は来月の平原演劇祭を文字通り万障繰り合わせて見に行くことを決めた。
QU'EST-CE QU'ON A FAIT AU BON DIEU?
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2014年にフランスで1600万人(およそ4人に1人!)が見たという大ヒット作品。
多民族多文化社会である現代のフランス社会ならではの娯楽喜劇映画。フランス語教員には見に行くことを強力に薦めたいし、教室で学生にも見せたい映画だ。
地方都市に住む保守的なブルジョワ夫婦には4人の美しい娘がいる。娘の結婚相手が、一人目がアラブ人、二人目がユダヤ人、三人目が中国人であることに夫婦はショックを受ける。四人目の娘の結婚相手はカトリックの青年だが、コートジボワール出身の黒人だった。
フランス人が一般的に持っている人種ステレオタイプがギャグとして用いられる。そして他民族、他宗教に対する偏見を互いに持っていることを自覚しつつ(あるいは自覚しているがゆえに)「人種差別」racismeという言葉に敏感に反応してしまうことも。こうした自己批評的で自虐的で皮肉な笑いはいかにもフランスっぽい感じがする。
この映画のなかでの「中国人は閉鎖的で何を考えているのかわからない」、「フランス人はわれわれアフリカから搾取した」といった台詞は実際に私もフランスで聞いたことがある言葉だ。こうした人種偏見的発言、他民族をからかうような発言は、フランスにいると耳にすることはまれではない。人種差別的なギャグも。われわれ日本人もいないところではかっこうのからかいの対象になっているはずだ。
映画はハッピーエンドで終わる。もちろんこんなハッピーエンドは、現実にはとうていあり得ないファンタジーであることは、多民族多文化の摩擦のなかで日々暮らしているフランス人たちは重々承知しているはずだ。このハッピーエンドはファンタジーではあるけれど、フランス人たちの願いがこめられている。こういった願いが込められた自己批評的風刺劇が大ヒットするというのは、フランス社会はまだ捨てたもんじゃないという風に思う。
現在、東京では恵比寿ガーデンシネマでしか上映していない。神奈川ほか地方ではこれから順次公開される。
四姉妹はみな美人だったけれど、なかでも四女役のエロディ・フォンタンが私好みの顔立ちだった。
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岡山県にある漁港、牛窓の牡蠣加工場の労働風景が映し出される。猫のシロ、牛窓の海、リズミカルで機能的な作業過程、そこで働くひとたちの素朴で実直な姿。単調で散文的な労働の日々のなかに思いがけない詩情があることに気づかされる。しかし想田のカメラは甘い抒情だけに浸らせてはくれない。苛酷な労働環境とも言える牡蠣工場で働く人々と映画館でその映像を見る私たちとのあいだにある決定的な距離感も冷徹に想田のカメラは映し出す。中国人短期労働者を迎入れる様子を撮影することを拒否する工場主の言葉の強さ、背中を向けたその様子への想田の戸惑い、働き始めた中国人労働者の不安げな視線。こうした場面にも想田のカメラはしっかりと向けられていて、その戸惑いや不安を正面から受けとめている。ナレーションがないことによって、観客はその映し出される映像の人たちの心中、彼らがかかえる背景を、じっと深く想像することに導かれる。
アンダーグラウンド UNDERGROUND
評価:☆☆☆☆☆
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日本でロードショー公開時に見た。ナチスドイツ占領下のユーゴスラビアから映画製作当時のユーゴ紛争までの現代史をたどる。とにかく破天荒な人物たちによる破天荒な擬似現代史の物語だった。ブラスバンドによるジプシー風音楽の印象も強烈だった。
恵比寿ガーデンシネマでは1月中旬からクストリッツァの回顧上映をやっていて、20年前に見たこの作品の他、少なくとも『黒猫・白猫』、『ジプシーのとき』、『ライフ・イズ・ミラクル』は見たいと思っていたのだが、恵比寿が自分の普段の行動範囲から外れているし、何かと予定が詰まっていたりして、結局最終日の最終上映の『アンダーグラウンド』だけを見ることができた。
今さら私がここで書くまでもないが、これは超傑作だ。音楽、映像、言葉のアンサンブルが濃厚な詩的驚異を作り出している。主人公の一人、クロが何か行動するたびにブラスバンドがバックミュージックを演奏するというアイディアのばかばかしさは天才的だ。音楽映画として私が見た映画のなかでは最高の部類だ。映画のドラマツルギーのなかで音楽がしっかりと組み込まれていた。
とにかくずっと騒がしくて狂っていてこちらを引き込むようなのりがある。3時間近い長さだが退屈を感じない。俳優たちの個性も強烈だ。マルコとクロの無頼ぶり、そしてナタリアの軽薄さ、エゴイズム、そしてその享楽性ゆえに圧倒的な美しさ。映像の絵の美しさも見事だった。第三部で殺害されたマルコとナタリアの死体が、戦火のなか、燃えさかる電動車椅子に乗ったままぐるぐると円を描く場面はとりわけ鮮烈だった。他にも思わずあっと声を上げそうになる美しい場面がいくつかあった。
1995年に見たときも衝撃的だったが、今回の見たほうがより衝撃は大きく、感動も深まったのは、2000年以降、フランスでの教員研修でアルバニア、ボスニア、セルビア、マケドニアの教員たちと知り合い、そのうちの幾人かとはFacebookを通じて交流が続いているからだ。1995年はユーゴ紛争のさなかでその悲惨は報道やルポルタージュで伝えられていたものの、当時の私には自分とは関係ない遠い国の出来事で、その原因や状況についてはあまり興味を持っていなかった。今はバルカン半島地域で生まれ育ったフランス語教員数名と知己を得て、彼ら・彼女たちが経験してきた凄まじい歴史を『アンダーグラウンド』を通して想像せずにはいられない。
サウルの息子(2015)SAUL FIA
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アウシュビッツ強制収容所で同胞たちをガス室に送り、その死体処理を行う任務を行う「ゾンダーコマンド」のサウルが、死体のなかに自分の「息子」を見つける。サウルはその遺体をユダヤ式に葬ることに異常なこだわりをみせ、危険や困難を省みず、葬儀を執り行うことのできるラビを収容所のなかで探し回る。
アウシュビッツ強制収容所での非人道的なユダヤ人虐殺の日々のなかで、ゾンダーコマンドのサウルは、絶望と諦念のなかで、人間としての感情を殺し、淡々と作業を行う。「息子」の埋葬という行為への狂気じみたこだわりの一点のみにサウルの人間性が集約される。彼の異常な行動の背景で展開するむごたらしく、救いのない風景は、ピントのぼけたぼんやりとした映像を通してより一層、生々しく伝わってくる。
地獄の情景の容赦なさに、見終わった後げっそりした気分になる。見てよかったような、見ないほうがよかったような。
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「16世紀に書かれたテキストに基づいて山村クラリェで上演されるキリスト受難劇の記録」と紹介にあるが厳密な意味でのドキュメンタリーではないはずだ。演じている俳優はおそらく村の人々だと思われるし、上演台本もその村に伝わっているものではあるが、映画撮影用に再現された上映だと思われる。「春の劇」というタイトルからおそらくこの村では復活祭の時期にこのキリスト受難の劇を上演する習慣があったのだろう(今でも続いているかどうかは不明)。
上演場所は村内の数カ所で、夜と昼の両方をまたいでいる。台詞は、百人一首の読み上げを連想させるような独特の調子で読み上げられるが、その朗唱は単調きわまりなく、上映中は睡魔との戦いとなった。最後のイエス受難の場面に重なって、二十世紀の戦争の被害を映し出した実映像がいくつか映し出される。この重ね方は作為がみえすぎ、安易かつありきたりだ。
見始めてからこの作品をかつて見ていたことを思いだした。実に興味深い題材の作品であったが、退屈極まりない作品でもあった。
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綱渡りという曲芸は日本では奈良時代に中国から伝わったという記録があるらしい。西洋では古代からある。ラテン語にもfunambulusという語彙はあるので西洋では古代からあった曲芸だった。綱渡りという曲芸が古今東西の人間を魅了する理由として、友人の一人は「一歩足を踏み外せば転落してしまう綱渡りは人生のすぐれいた比喩になっているからだ」とtwitterでつぶやいていた。確かにそうかも知れない。生と死という劇的な対比を人工的に視覚的に提示することで、綱渡りは人が「生きている」ということを強く感じさせる。
何年か前に『マン・オン・ワイヤー』という綱渡り師、フィリップ・プティを描いたドキュメンタリー映画が話題になった。この映画は気になりつつも私は見に行けなかったのだが、ゼメキスの『ザ・ウォーク』は『マン・オン・ワイヤー』の主人公の挑戦を劇映画化したものだ。フィリップ・プティが地上110階、高さ411mのワールドトレードセンターでの伝説的な綱渡りを成功させる経緯を描いている。
CGによるワールドトレードセンターの綱渡り場面の再現が見物の作品ではあるが、そこに到達する経緯のエピソードの処理が巧く、クライマックスのドラマを盛り上げている。ワールドトレードセンターの命綱なしの綱渡りは非合法の冒険だ。無謀な冒険に理解を示し、手を貸す「共犯者」たちとの出会いの場面、そして綱渡り結構前夜、警備をかいくぐってセンターに忍び込む場面の緊迫感も素晴らしい。チャンスは一回きりだ。厳重な警備をくぐり抜け、綱渡り用の機材を運び込むには、恐ろしく綿密な計画が立てられていたはずである。よくぞ忍び込めたものだと思う。
目玉となる綱渡り場面は圧巻の一言。私は3Dで見たが、下腹部に力が入り、脳血管が充血するような感覚を何度も味わった。私は高所恐怖症ではないと自分が思っていたのだが、目まいのしそうな迫力のある映像に思わず「うぉっ」と何回か思わず声が漏れてしまうことがあった。IMAX3Dだとどれくらい見え方が違うのだろうか。見比べてみたい気がする(恐いけれど)。
2016年、あけましておめでとうございます。
このブログはもともと観劇記録のためのもので、私が見た全作品について一言でも感想を記したいと思っているのですが、昨年は元「ワンダーランド」のスタッフの有志とスタートさせた観客発信メディア WLに劇評を掲載したり、Facebookのノートに感想を記したりすることが多く、こちらのブログの更新が滞っていました。
一つの場所で自分の観劇記録を一覧出来ることはやはりとても便利なのでおいおい時間を見つけて方々に書いた劇評の類をこちらに集約させていきたいと考えていますが、とりあえず昨年、2015年に見た演劇作品についてこの記事でまとめて書いておきたいと思います。
2015年には下のリストにあるように私は約100本の作品を見ました。複数回行った公演があったり、複数の演目が上演される公演もありましたので約100本となります。私の満足度という観点から評価すると最高点の☆☆☆☆☆をつけた演目は12本となります。この12本にはいずれも大きな感銘を受けましたが、自分にとってのインパクトの強さから敢えて順位をつけると以下のようになります。
1. 古代演劇クラブ『EPITREPONTES Act 2 & 3』
2. SPAC『室内』
3. 三条会『熱帯樹』
4. 庭劇団ぺ二ノ『地獄谷温泉 無明ノ宿』
5. ムシカ・ポエティカ『<操り人形と歌の夕べ>〜「ユトロ」とともに〜』
6. 佐東利穂子、勅使川原三郎『ペレアスとメリザンドⅡ』
7. ←ココカラ『語りえぬもの Not Talking』
8. 木ノ下歌舞伎『黒塚』
9. 青年団+第12言語演劇スタジオ『新・冒険王』
10.青年団『走りながら眠れ』
次点:木ノ下歌舞伎『心中天の網島』
番外:ギリヤーク尼ヶ崎「大道芸」@川越
1. 古代演劇クラブ『EPITREPONTES Act 2 & 3』は、メナンドロスの喜劇を古代ギリシャ語で上演するという画期的な試みでした。古代ギリシャ悲劇の上演は度々ありますし、喜劇についてもアリストファネスの演目ならたまに上演されることがあります。しかし完全なテキストが残っていないメナンドロスの作品は極めて稀ですし(おそらく海外でもほとんどないと思います)、しかも古代ギリシャ語の上演となるとなおさらです。観客もそしておそらく演じる俳優も、古代ギリシャ語を理解できる人はほとんどいなかったはずです。しかしこの実験的で挑発的で、そして学術的でもある公演が、演劇公演として実に興味深いものになっていました。訳者・演出家の古代ギリシャと演劇への深い敬愛を感じとることのできる公演でした。この公演については劇評を残すことができていないこと、そしてその後二回行われた古代演劇クラブの公演を見ることができなかったことを私はとても遺憾に思ってます。
2. SPAC『室内』は、二年前の楕円堂での初演、そして昨年のアヴィニョン演劇祭と公演を追いかけてきました。この作品によって私はメーテルランクの深淵で静謐な世界の魅力を知ることができました。作品誕生の地である楕円堂にこの作品が回帰し、その最後の公演に立ち会えたことをとても幸せに思っています。
3. 三条会『熱帯樹』は、実に異様な舞台でした。演出の関は、三島の戯曲を徹底的に読み込んだ上で、極めて独創的な表現を付与しています。過剰でグロテスクな修辞虚構となった『熱帯樹』の人物たちはさらにデフォルメされ、その異形性が強化されていました。
4. 庭劇団ぺ二ノ『地獄谷温泉 無明ノ宿』ペニノの世界は、少年期の無邪気な悪意、性欲、好奇心、エゴイズムを、特殊な環境で培養し、発酵させたかのような趣きがあります。少年期、思春期の性的ファンタジーの特殊な発展が、グロテスクで滑稽な驚異を作り出していました。
5. ムシカ・ポエティカ『<操り人形と歌の夕べ>〜「ユトロ」とともに〜』は、声楽、器楽、人形、朗読という異なる表現手段の融合が、奇跡のような美しい舞台を作り出してました。ミニマルな構成によるささやかな舞台でしたが、異なる属性の表現が互いに呼応しあい鉱物の結晶を思わせる強固な時空が出現していました。
6. 佐東利穂子、勅使川原三郎『ペレアスとメリザンドⅡ』。佐東利穂子は確かにメーテルランクとドビュッシーによるこのオペラの核心となる部分を丁寧に読み取った上で、それをダンスという非言語的手段によって変換することで、作品の本質的で深遠な領域に到達しているように感じました。彼女の表現は極めて詩的で文学的でした。
7. ←ココカラ『語りえぬもの Not Talking』は、4人の俳優によるリーディング公演でした。リーディング公演は、波長が合い、その語りのなかに引き込まれたときには、通常の演劇公演以上に深い感興を味わうことができるような気がしますが、今回のマイク・バーレット作『語りえぬもの』の公演はまさにこういう公演でした。演劇公演は一つの空間と時間を共有者たちのあいだで相互に行われる「翻訳」作業の集積の上に成立していることを感じさせる親密な雰囲気の公演でした。
8. 木ノ下歌舞伎『黒塚』。昨年は私にとって木ノ下歌舞伎デビューの年となりました。杉原邦生演出の『黒塚』、『三人吉三』を3月と6月に見て、9月にFUKAIPRODUCE羽衣の糸井幸之介演出の『心中天の網島』を見ました。いずれも異なる雰囲気の演出でしたが、歌舞伎台本の新しい可能性を拓く現代演劇としてとても面白く見ました。三本とも素晴らしい作品でしたが、その中でも最も印象深かったのは3月に見た『黒塚』でした。
9. 青年団+第12言語演劇スタジオ『新・冒険王』。青年団の芝居のクオリティは安定しています。旧作の『冒険王』も傑作ですが、同じ場所設定を利用した日韓の新作、『新・冒険王』に私はより大きな感銘を受けました。祖国に居場所を見失い、国を離れて生きる人たちの寄る辺なさが心にしみ、結末に示された祈りと希望に深く共感しました。日本と韓国、こんな距離感で恐る恐るつき合っていければいいと思います。
10.青年団『走りながら眠れ』を見るのは私は二回目でしたが、私は平田オリザ作品のなかでも最も好きな作品の一つです。時代と社会の圧力を一身に引き受け、異端としての生きざまを全うした二人のアナキストの精神の強靱さに心打たれました。平穏と緊張という矛盾する空気を見事に演じた古屋隆太と能島瑞穂の演技は、前に見たときよりもさらに深化しているように感じました。
番外のギリヤーク尼ヶ崎「大道芸」@川越、高齢と体調不良のため実施が危ぶまれていたパフォーマンスです。手の震えはさらにひどくなり、最初のほうはかなり調子が悪そうだったのですが、踊っているうちに元気を取り戻したようで、走り回り、水を被る「念仏じょんがら」も見事に踊りきりました。終演後には演者も観客も泣いていました。
この十二作以外にも言及したい素晴らしい舞台はたくさんありました。がらがらの金沢おぐら座で娘とみた南條光貴劇団は忘れがたい公演でしたし、3月のアトリエ春風舎でのRoMT『十二夜』は様々な演出上の工夫で幅広い観客から支持されました。6月のままごとの『わが星』再再演は、2011年4月と同じく娘と一緒に見に行き、やはり印象深い公演になりました。5月にアゴラで上演されたSMショーの再現、elePHANTMoon
『爛れ、至る。』も強烈な舞台でした。てがみ座『地を渡る舟』、鳥公園『緑子の部屋』も劇評で取り上げてみたかった優れた公演でした。
日付 |
カンパニー・出演者 |
作者 |
演出 |
公演名 |
劇場 |
評価 |
備考 |
2015/01/02 |
革命アイドル暴走ちゃん |
二階堂瞳子 |
二階堂瞳子 |
うぇるかむ★2015〜革命の夜明け〜 |
絵空箱 |
☆☆☆★ |
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2015/01/04 |
南條光貴劇団 |
|
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|
おぐら座 |
☆☆☆☆★ |
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2015/01/07 |
一見劇団 |
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|
篠原演芸場 |
☆☆☆☆ |
|
2015/01/11 |
たつみ演劇BOX |
|
|
|
浅草木馬館 |
☆☆☆☆★ |
|
2015/01/18 |
SPAC |
|
静岡芸術劇場 |
☆☆☆☆ |
|
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2015/01/22 |
水素74% |
田川啓介 |
田川啓介 |
こわれゆく部屋 |
アトリエ春風舎 |
|
|
2015/01/23 |
←ココカラ |
ブライアン・フリール |
江尻裕彦 |
それからの二人 |
グリーンエイミーカフェ |
☆☆☆☆★ |
|
2015/01/30 |
フライハイトプロジェクト |
市川奈々 |
大舘実佐子 |
おしえてよ、ねぇ |
★ |
|
|
2015/02/07 |
ホエイ |
山田百次 |
山田百次 |
雲の脂 |
アトリエ春風舎 |
☆☆☆☆ |
|
2015/02/20 |
Ezéquiel Garcia-Romeu |
Ezéquiel Garcia-Romeu |
Banquette Shakespeare |
TNN |
☆☆☆★ |
|
|
2015/02/22 |
Bustric |
Bustric |
Shakespeare e le nubole |
TNN |
☆☆☆ |
|
|
2015/03/07 |
SPAC |
静岡芸術劇場 |
☆☆☆☆ |
|
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2015/03/11 |
木ノ下歌舞伎 |
木ノ下裕一 |
杉原邦生 |
黒塚 |
☆☆☆☆☆ |
2015/03/19にも鑑賞。 |
|
2015/03/12 |
桃園会 |
清水友陽 |
深津篤史 |
paradise lost, lost |
☆☆☆★ |
|
|
2015/03/13 |
カトリ企画 |
渡邊一功、岸田國士 |
山本タカ |
ある夫婦 |
古民家asagoro |
☆☆☆☆ |
|
2015/03/13 |
iaku |
上田一軒 |
あたしら葉桜 |
古民家asagoro |
☆☆☆☆ |
||
2015/03/13 |
桃園会 |
空ノ驛舎 |
深津篤史 |
うちやまつり |
☆☆☆☆ |
|
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2015/03/14 |
石神井東中学校演劇部 |
竹生東、室達志 |
田代卓 |
上を向いて歩こう2013 |
練馬区富士見台地区区民館 |
☆☆☆★ |
|
2015/03/16 |
RoMT |
田野邦彦 |
アトリエ春風舎 |
☆☆☆☆★ |
3/27にも鑑賞。 |
||
2015/03/18 |
|
梅雨小袖昔八丈―髪結新三―/三人形 |
☆☆☆★ |
|
|||
2015/03/19 |
モズ企画 |
|
|
韓国新人劇作家シリーズ第三弾 |
タイニイアリス |
☆☆ |
2作品 『童話憧憬』 / 『とんでもない同居』 / アフタートーク: 童話憧憬について |
2015/03/21 |
OM-2 |
|
真壁茂夫 |
作品No.9 |
日暮里サニーホール |
☆☆☆★ |
|
2015/03/25 |
古代演劇クラブ |
メナンドロス |
岡本卓郎 |
EPITREPONTES Act 2 & 3 |
東松原ブローダーハウス |
☆☆☆☆☆ |
|
2015/03/26 |
関東中学校演劇 |
|
|
第4回関東中学校演劇発表会・2015関東中学校演劇コンクール 第2日目 |
神奈川県立少年センター |
|
6演目を鑑賞。 |
2015/03/27 |
ENBUゼミ卒業公演 |
|
糸井幸之介 |
ABCEFGH |
シアター風姿花伝 |
☆☆☆☆ |
|
2015/04/04 |
キムラ企画 |
木村謙太 |
木村謙太 |
あっち無為て本意 |
アトリエ春風舎 |
☆☆☆★ |
|
2015/04/10 |
ラティガン |
鈴木裕美 |
ウィンズロウ・ボーイ |
新国立劇場小劇場 |
☆☆☆ |
|
|
2015/04/12 |
シアター・ノーチラス |
今村幸市 |
今村幸市 |
スカイ |
シアター711 |
☆☆☆ |
|
2015/04/12 |
映画美学校アクターズ・コース |
松井周 |
石のような水 |
アトリエ春風舎 |
☆☆☆☆ |
|
|
2015/04/22 |
玉田企画 |
玉田真也 |
玉田真也 |
ふつうのひとびと |
アトリエ春風舎 |
☆☆☆★ |
|
2015/04/25 |
SPAC |
トム・ラノワ |
メフィストと呼ばれた男 |
静岡芸術劇場 |
☆☆☆☆ |
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|
2015/04/25 |
デュレンマット |
中島諒人 |
天使バビロンに来たる |
楕円堂 |
☆☆☆ |
|
|
2015/04/29 |
一見劇団 |
|
|
|
浅草木馬館 |
☆☆☆★ |
|
2015/05/01 |
ムシカ・ポエティカ |
淡野弓子 |
<操り人形と歌の夕べ>〜「ユトロ」とともに〜 |
三鷹市芸術文化センター 星のホール |
☆☆☆☆☆ |
|
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2015/05/03 |
SPAC |
ふたりの女 |
野外劇場 有度 |
☆☆☆☆ |
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2015/05/04 |
イサーム・ブーハーレド、ファーディー・アビーサムラー |
イサーム・ブーハーレド、ファーディー・アビーサムラー |
イサーム・ブーハーレド、ファーディー・アビーサムラー |
ベイルートでゴドーを待ちながら |
BOXシアター |
☆☆☆★ |
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2015/05/04 |
演戯団コリペ |
太田省吾 |
李潤澤 |
小町風伝 |
楕円堂 |
☆☆☆☆ |
|
2015/05/04 |
SPAC |
メーテルランク |
ダニエル・ジャンヌトー |
盲点たち |
BOXシアター |
☆☆☆ |
|
2015/05/05 |
SPAC |
大東翼[㈱大と小とレフ]、鈴木一郎太[㈱大と小とレフ]、西尾佳織[鳥公園] |
大東翼[㈱大と小とレフ]、鈴木一郎太[㈱大と小とレフ]、西尾佳織[鳥公園] |
例えば朝9時には誰がルーム51の角を曲がってくるかを知っていたとする |
静岡市池田地区周辺 |
☆☆☆☆ |
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2015/05/05 |
ポワン・ゼロ |
ジャン=ミシェル・ドープ |
聖★腹話術学園 |
静岡芸術劇場 |
☆☆☆★ |
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2015/05/10 |
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☆☆☆☆★ |
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2015/05/15 |
幕が上がる |
☆☆☆★ |
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2015/05/17 |
SPAC |
久保田梓美 |
マハーバーラタ〜ナラ王の冒険 |
駿府公園特設舞台 |
☆☆☆☆ |
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2015/05/25 |
ままごと |
柴幸男 |
柴幸男 |
わが星 |
三鷹市芸術文化センター 星のホール |
☆☆☆☆★ |
6/10にも観賞。 |
2015/05/27 |
elePHANTMoon |
マキタカズオミ |
マキタカズオミ |
爛れ、至る。 |
☆☆☆☆★ |
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2015/05/29 |
快快 |
多田淳之介 |
岩井秀人 |
再生 |
KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ |
☆☆☆☆ |
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2015/06/17 |
青年団+第12言語演劇スタジオ |
平田オリザ、ソン・ギウン |
平田オリザ、ソン・ギウン |
新・冒険王 |
☆☆☆☆☆ |
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2015/06/19 |
劇団あおきりみかん |
鹿目由紀 |
鹿目由紀 |
だるい女 |
☆☆☆★ |
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2015/06/21 |
木ノ下歌舞伎 |
河竹黙阿弥/木ノ下裕一 |
杉原邦生 |
東京芸術劇場 シアターウエスト |
☆☆☆☆★ |
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2015/06/23 |
石神井東中学演劇部 |
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石神井東中学校 |
☆☆☆★ |
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2015/06/25 |
冒険王 |
☆☆☆☆★ |
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2015/06/26 |
←ココカラ |
江尻裕彦 |
作者の声 |
グリーンエイミーカフェ |
☆☆☆★ |
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2015/06/28 |
宝塚月組 |
Dove Attia、Albert Cohen |
1789 -バスティーユの恋人たち- |
☆☆☆☆ |
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2015/07/01 |
マームとジプシー |
藤田貴大 |
藤田貴大 |
☆☆☆☆★ |
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2015/07/03 |
吉野翼企画 |
岸田理生 |
吉野翼 |
恋 其之弐 |
☆★ |
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2015/07/08 |
Q |
市原佐都子 |
市原佐都子 |
玉子物語 |
☆☆☆★ |
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2015/07/12 |
SPAC |
夜叉ヶ池 |
韮山時代劇場大ホール |
☆☆☆☆ |
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2015/07/17 |
ArCairo |
長谷川寧、いいむろなおき |
長谷川寧、いいむろなおき |
Phantom Form, Invisible Move |
☆☆★ |
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2015/08/20 |
庭劇団ぺ二ノ |
地獄谷温泉 無明ノ宿 |
森下スタジオ・Cスタジオ |
☆☆☆☆☆ |
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2015/08/21 |
劇団HIT!STAGE × 14+ |
森馨由 |
中嶋さと |
血の家 |
☆☆☆★ |
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2015/08/27 |
下鴨車窓 |
田辺剛 |
田辺剛 |
漂着(island) |
☆☆☆☆ |
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2015/08/24 |
KUNIO |
柴幸男 |
杉原邦生 |
TATAMI |
KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ |
☆☆☆ |
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2015/08/30 |
荒川区芸術文化振興財団 |
棚川寛子 |
棚川寛子 |
おしいれのぼうけん |
日暮里サニーホール |
☆☆☆★ |
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2015/09/03 |
範宙遊泳 |
山本卓卓 |
山本卓卓 |
幼女Xの人生で一番楽しい数時間 |
☆☆☆ |
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2015/09/04 |
栗山民也 |
國語元年 |
紀伊国屋サザンシアター |
☆☆☆☆ |
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2015/09/05 |
”inochi”2015〜考える手〜 |
塚田次実(genre:Gray) |
塚田次実(genre:Gray) |
譚詩~フェイク~ |
六本木ストライプスペース |
☆☆☆★ |
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2015/09/06 |
produce lab 89『官能教育』 |
マルケス/神里雄大 |
神里雄大 |
エレンディラ |
新世界 |
☆☆☆☆ |
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2015/09/07 |
玉田企画 |
玉田真也 |
玉田真也 |
果てまでの旅 |
アトリエ春風舎 |
☆☆☆★ |
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2015/09/10 |
”inochi”2015〜考える手〜 |
黒谷都(genre:Gray) |
西村洋一 |
顔のモノ語り |
六本木ストライプスペース |
☆☆★ |
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2015/09/11 |
On7 |
古川健 |
日澤雄介 |
その頬、熱線に焼かれ |
☆☆☆☆ |
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2015/09/16 |
”inochi”2015〜考える手〜 |
岡本芳一/黒谷都(genre:Gray) |
西村洋一、黒谷都 |
涯なし |
六本木ストライプスペース |
☆☆☆☆ |
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2015/09/18 |
スティーヴン・シュワルツ、ロジャー・O・ハーソン |
ダイアン・パウラス |
☆☆☆☆ |
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2015/09/22 |
”inochi”2015〜考える手〜 |
大井弘子・千田庸子 |
大井弘子・千田庸子 |
ふ・ふふ・ふしぎだな |
六本木ストライプスペース |
☆☆☆☆ |
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2015/09/25 |
木ノ下歌舞伎 |
近松門左衛門/木ノ下裕一 |
糸井幸之介 |
心中天の網島 |
☆☆☆☆☆ |
10/5にも観劇。 |
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2015/09/27 |
熱帯樹 |
☆☆☆☆☆ |
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2015/10/09 |
Marc Labrèche |
ロベール・ルパージュ |
ロベール・ルパージュ |
Needles and Opium 針とアヘン~マイルス・デイヴィスとジャン・コクトーの幻影~ |
☆☆☆☆ |
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2015/10/11 |
SPAC |
メーテルランク |
クロード・レジ |
室内 |
楕円堂 |
☆☆☆☆☆ |
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2015/10/18 |
Theatre des Annales |
谷賢一 |
谷賢一 |
『従軍中のウィトゲンシュタインが・・・(略)』 |
☆☆☆★ |
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2015/10/22 |
スティーブン・ソンドハイム、ジェームス・ラパイン |
宮田慶子 |
パッション |
☆☆☆☆★ |
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2015/10/26 |
てがみ座 |
長田育恵 |
扇田拓也 |
地を渡る舟―1945/アチック・ミューゼアムと記述者たち― |
☆☆☆☆★ |
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2015/10/30 |
FUKAIPRODUCE羽衣 |
糸井幸之介 |
糸井幸之介 |
橙色の中古車 |
☆☆☆☆★ |
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2015/11/15 |
島田曜蔵 |
島田曜蔵 |
銀河鉄道の蔵ノート |
☆☆☆★ |
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2015/11/15 |
忠臣蔵・OL編 |
☆☆☆★ |
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2015/11/15 |
忠臣蔵・武士編 |
☆☆☆★ |
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2015/11/16 |
走りながら眠れ |
☆☆☆☆☆ |
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2015/11/18 |
マクドナー |
小川絵梨子 |
スポケーンの左手 |
シアタートラム |
☆☆☆☆ |
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2015/11/19 |
鵜山仁 |
新国立劇場小劇場 |
☆☆☆★ |
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2015/11/22 |
パリ市立劇場 |
イヨネスコ |
エマニュエル・ドゥマルシー=モタ |
犀 |
彩の国芸術劇場 |
☆☆☆ |
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2015/11/27 |
←ココカラ |
バートレット |
江尻裕彦 |
語りえぬもの Not Talking |
グリーンエイミーカフェ |
☆☆☆☆☆ |
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2015/11/30 |
佐東利穂子、勅使川原三郎 |
カラス・アパラタス |
☆☆☆☆☆ |
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2015/12/01 |
綾門企画 |
綾門優季 |
綾門優季 |
汗と涙の結晶を破壊 |
アトリエ春風舎 |
☆☆☆★ |
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2015/12/05 |
鳥公園 |
西尾佳織 |
西尾佳織 |
緑子の部屋 |
☆☆☆☆★ |
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2015/12/05 |
メジャー・リーグ |
フェードル |
☆★ |
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2015/12/06 |
大道芸 |
☆☆☆☆☆ |
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2015/12/09 |
青☆組 |
吉田小夏 |
吉田小夏 |
海の五線譜 |
アトリエ春風舎 |
☆☆☆★ |
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2015/12/11 |
レ・ボレアード、SPAC |
妖精の女王 |
☆☆☆☆ |
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2015/12/13 |
青年団の演劇入門 |
田野邦彦 |
田野邦彦 |
快楽の園 |
コミカレカフェ コンフォート |
☆☆☆☆★ |
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2015/12/18 |
ラジヴ・ジョセフ |
中津留章仁 |
新国立劇場小劇場 |
☆☆☆★ |
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2015/12/19 |
角替和枝、美加理 |
森新太郎 |
薔薇の花束の秘密 |
静岡芸術劇場 |
☆☆☆★ |
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2015/12/30 |
DanieLonelys |
ヒガシエイスケ |
DanielaGreen |
in the gool |
DanielaGreen |
☆☆★ |
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ハッピーアワー(2015)
上映時間 317分
製作国 日本
初公開年月 2015/12/12
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私が2015年に見た映画のなかで、最も素晴らしい作品だった。今年最後の映画鑑賞で会心の一作に出会うことができた。神戸が舞台のこの傑作を、神戸の映画館で見ることができてとても満足している。
港町神戸に住む30代後半の女性4人の友情のありかたを描く。
平凡至極に思える人生も実はけっこう波乱万丈だったりする。30代後半、人生の後半期に入るころ、ふと生活のなかでの小さな疲れ、無理の蓄積に気がついてしまうことがある。これまで社会関係のなかで自分を自分として成立させるのに貢献してきた欺瞞や嘘、口に出せなかった思いを、一度振り払い、人生を一度リセットし、「再生」したくなるような時がやってくる。自分の抱え込んでいるものをすべて率直に吐き出してしまいたい、吐き出すことで自分の人生を取り戻してみたくなる衝動に襲われる。でもどうやったら、そうしたことができるだろうか?
『ハッピーアワー』で私が何よりも感動したのは、様々な葛藤のなかで日々を生きる4人の女性が、自分自身としっかり向き合い、いろいろな感情の混沌を引き受け、そして自分自身の思いを表明する行動や言葉を真摯に少しずつ見出す過程が率直に描き出されていることだ。劇中、第一部のエピソードの核となるいかにもうさんくさい「ワークショップ」はそうした仕掛けの一つとして象徴的な意味を持っている。
ワークショップや朗読会などのイベントやその打ち上げの場面の精緻なリアリズムにもしびれた。中途半端な知り合いが場を共有し、互いを探り合うぎごちない雰囲気やイベントの参加者が実は企画者の「身内」ばかりという身もふたもない実情の暴露。場面設定やシーケンスの展開に容赦ないリアリズムがある一方で、棒読みに近いやり方で行われる議論の内容は、妙に高尚で文学的だったりする。朗読会のあと、急にアフタートークの相手として朗読された小説について語る生命倫理学者のテキスト分析の見事さには驚嘆した。
展開はスリリングで飽きさせない。そしてこれまで演技経験がないという4人の主演女優のたたずまいと美しさに惹きつけられた。彼女たちはいずれも美しい30代後半の女性だ。その美しさは確かに「プロ」の女優にはない、微妙ないびつさと崩れがあり、それが大きな魅力になっている。
この作品を、ロケ地である神戸の映画館、元町映画館で見られて本当によかった。70席ほどの小さな映画館だが、今日の上映は満席だった。この映画で映し出される神戸には、有名な観光ポイントは含まれていないけれど、まさしく神戸の人間が生活の場として実感できる神戸の姿が取り上げられている。そのことが、神戸出身の私にはとてもうれしかった。そしてこのローカルな映画が、ロカルノ、ナントなどの映画祭で国際的評価を得ていることを誇らしく思う。