閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

笑の大学

ユナイテッド・シネマとしまえんのスーパー・レイトショーで.深夜0時から上映開始.ヒットしている「いま,会いに行きます」と先週公開されたばかりの「ハウルの動く城」のおかげか,あるいはこのところ連日入っている割引券付のちらしの効果か,深夜にもかかわらず今夜のユナイテッド・シネマとしまえんはそれなりのにぎわいがあった.若いカップルが多い.ただし「笑の大学」の僕が観た回はがら空きで客は10人ほど.時間が時間ということもあるけれど.

三谷戯曲の最高傑作という評も目にして前から観たかった作品.Yahooなどのサイトの観客の評価もやけに高い.第二次大戦直前の東京,喜劇台本の検閲をめぐるコメディ.検閲官の理不尽に思えるような厳しい要求に,劇作家が必死で応えることで,喜劇台本の完成度が徐々に高まっていく.厳しい制約の中で,珠玉のような作品がうみだされ得ること,またそのような厳しい制約が傑作誕生の十分条件となりえることは,フランスの古典主義時代の演劇作品や,自ら非演劇的な方向を示唆する厳しい枠組みを設定し,その中で演劇純度の高い作品を作り出したベケットなどの例が思い浮かぶが,少ない予算とスタッフでの制作を強いられる小劇場の大半の芝居でも,こうした問題設定はきわめて本質的且つ日常的なものであるように思う.三谷戯曲は,舞台を戦時の検閲制度という不条理を設定することで,この作品創造の「神秘」の一端を語ろうとしているメタ演劇となっている.こうした目のつけどころは本当に見事だと思うのだが...
映画では単調さを避けるために,当時の浅草の大衆劇場の風景を取り入れてはいたものの,実質的には警視庁の取調室を舞台とする二人芝居.稲垣吾郎の演技はいかにも新劇の(あまり上手ではない)舞台俳優風で,映画というメディアが強いるリアリズムと彼の演技がかみ合っていない.役所の演技は,舞台作品とはあきらかに別の映画独自の表現を目指していたように思う.この二人の役者の経験とセンスの差が,登場人物が二人だけに,くっきりと対照されてしまった.二人のリズムがかみあっていない.三谷脚本も「これが彼の最高傑作?!」と首をかしげるくらい,肝心のギャグに切れがない.「笑い」ってのは本当に難しいもんだなぁ,と思わせてしまうようなギャグが続く.うーん,少なくとも僕にはおかしくともなんともないギャグばかり.三谷ギャグはそもそも毒に欠けて物足りないところがあるけれど(僕好みの笑いはやはり少々グロテスクな雰囲気のある皮肉なナンセンスかなぁ).
戦争という時代背景を利用したラストシーンも説得力に欠ける.あまりにも安易に「泣かせよう」としとるなぁ,と白けた気分で観る.驚きに欠ける映画だった.
Yahooサイトでの観客の評価の高さは,好みの違いもあるとはいえ,僕にはいかにも異様に思える.関係者を動員しての「情報操作」の香りがして,さらに興ざめ.
追記:Yahooの他,はてなダイアリー,2ちゃんでの感想を観たけれど,なんと絶賛の声が多い! うーん,こちらのセンスがずれてるのかなぁ.納得いかんけど,「笑い」感覚についてはこちらがどうやらマイノリティのようだ.でもわからんねぇ,あの温い毒のないギャグがねえ.まいった.三谷,おそるべし.プロの仕事ちゅうのはこういうもんだ.