- 作:中島かずき
- 演出:いのうえひでのり
- 美術;堀尾幸男
- 照明:原田保,飯泉淳
- 衣装:小峰リリー
- 音楽:岡島司
- 出演:市川染五郎,鈴木杏,池内博之,高田聖子,三宅弘城,粟根まこと,村木仁,ラサール石井,佐藤アツヒロ
- 場所:有楽町 丸の内TOEI1
- 評価:☆☆☆☆★
http://www.aodokuro.jp/
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「シネ×ゲキ」と称する大画面スクリーンでの劇場録画映像の上映.録画と言っても,映画館上映を前提とした録画であり,カメラワークや編集などは演出家と細かい打ち合わせの上なされている.
本能寺の変の後,秀吉の関東攻めを待ち受ける関東の原野に作られた髑髏城に立てこもる信長の残党とその髑髏城と秀吉の狭間でほそぼそと生き延びる浪人と娼婦たちの物語.人物の対立軸がわかりにくいが,劇中では髑髏城郎党と髑髏城の設計者で城の設計図を盗んだために追われる娘,沙霧の対立が筋の中心に据えられている.基本的な物語の構造には若干わかりにくいところがあるが,3時間半の長丁場にもかかわらず,展開はスピーディーでギャグも豊富なため,全く退屈しない.
音楽,衣装,照明装置,派手な殺陣などすべてが絢爛な,濃厚なソースの料理をフルコースで味わったような感じ.
実のところ歴史に取材したこの手の伝奇的ロマン,ファンタジーは苦手である.昨年末に観た『SHIROH』も伝奇物語の薄っぺらさにしらけてしまったのだ.今回の『髑髏城』も同じタイプではあるが,今回は大いに楽しめた.最初の30分ほどは「わざわざ見に来ることもなかった」と公開し,休憩の間に帰ろうとさえ思ったのだ.こうした主題の扱い方や過剰な観客へのサービス精神,ご都合主義のSF的テイストがいかにも子供っぽく思えてしまうのである.
しかし今回は知らず知らずのうちにだんだんと派手な仕掛けが気にならなくなっていた.いったん物語世界の約束事を受け入れてしまうとずんずんとはまってしまう.役者がみんなうなるほどうまい.主演の市川染五郎はもとより,ヒロインの鈴木杏の溌剌とした演技にも引きつけられたし,女郎役の高田聖子をはじめとする脇役もそれぞれ個性を発揮していた.
くだらないギャグがやたらと多いのだが,役者の達者の芸で空回りすることはほとんどない.ナンセンスなギャグの挿入が後のエピソードの伏線にもなっていたりして,再演を重ねているだけあって,ディテールまで脚本はよく練られていた.最後は悲劇で泣かせて終わると思えば,心地よいハッピーエンド.啖呵を切りながら主要登場人物が一人一人花道を駆け下りて舞台から消えていく,爽快なラストシーンだった.
過剰で豪華絢爛な観客サービスに満ちた仕掛けに巧みな役者,そしてよく練られた脚本.なるほどこれならお客さんを呼べるはずだ.上質のエンターテイメントを堪能する.
映画館での芝居上映を観たのは,二月に観たシネマ歌舞伎『野田版鼠小僧』に続いて二回目.単なる劇場中継とは違いカメラワークは工夫されているし,映像もきわめてクリア.音響もすばらしい.この形態の上演は,演劇の持つ潜在的可能性の一つを魅力的なかたちで引き出している.役者の表情をはっきり追えるだけでなく,客席からでは不可能な舞台を多様な角度からの鑑賞を可能にすることで,舞台芸術の新たな魅力を発見させてくれた.新たな鑑賞の一形態として今後定着することを望む.