閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

明日は舞踏会

明日は舞踏会 (中公文庫)

  • 評価:☆☆☆☆
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バルザックの『二人の若妻の手記』を軸に十九世紀前半の貴族社会の女性の社交,とりわけ恋愛と結婚の生態を復元する試み.著者の軽妙且つ的確なコメントで当時の貴族女性の生活がいきいきと再現されていく.劇場や舞踏会の機能,夫婦生活のあり方,結婚の意味など現代の感覚とはかなり異なる部分があり非情に興味深い.恋愛にせよ結婚にせよ,その典雅で享楽的な表層の裏側に,きわめて冷徹で功利的な計算があるところが面白い.肥大したロマンチシズムとプラグマティズムが表裏一体なのである.冗長でときに些末的にさえ感じられる十九世紀小説の描写が,当時の生活の様子を伝えてくれる一級の歴史資料であり,展開する物語の重要な伏線になっていることをあらためて認識する.
思わせぶりなタームを使ったおたく的な作品分析ばかりでなく,こんな「読み」を教えてくれる文学の授業を受講したかったものだ.
これまで読んだ鹿島氏の著作で一番おもしろかった.