閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

リプレイ

リプレイ (新潮文庫)

  • ケン・グリムウッド著 杉山高之訳(新潮文庫,1990)
  • 評価:☆☆☆☆★
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43歳の秋に心臓発作で死んだ後,目が覚めると25年前に時間が逆戻りしている.そして25年間生きて43歳になったときにまた死ぬ.その後何回にもわたって人生をやり直すことになる.
あのときに戻って人生をやり直せれば,という夢想は誰もが抱くものだろう.しかしこの小説の主人公はこのやり直しを何度も何度も強いられる.繰り返される人生は彼にとって必ずしも幸せなものではない.時間の牢獄に永遠に閉じこめられたような感覚.構築してきたものが確実に43歳の秋に無になってしまうことによる虚無感.

北村薫が『ターン』の後書きで紹介していた小説.ターンでは24時間ごとに同じ時間を繰り返すが,この小説の繰り返しの期間はターンよりはるかに長い時間だ.最初の「リプレイ」の際,誰もが夢見るだろう,競馬やギャンブルで大もうけして莫大な財を築いていく過程の描写は秀逸で読んでいて爽快感がある.
設定はきわめてありふれたもので,筆も達者.問題はどういう結末をつけるかである.『リプレイ』は教養小説の趣もある.人生のリプレイを繰り返していくうちに徐々に主人公はその思考を深化させていく.主人公の成熟に従ってリプレイされる「現実」も当然姿を変えていく.この小説はすぐれた恋愛小説でもある.人生の繰り返しの中で巡り会ったもう一人のリプレイヤーとはぐくんだ深い信頼関係と愛情.
時代描写のディテイルの巧みさ,風俗や事件の選択にもセンスを感じる.そしてそこで描かれる風土や人々の心理のアメリカ的特性も,時代風俗とともに,生き生きと描かれている.通俗的ながら適度に真摯でもある主人公の性格設定も好ましく,読者が感情移入しやすい.