閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

パッション

http://www.herald.co.jp/official/passion/

  • 評価:☆☆☆☆
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聖書の記述に基づくイエス・キリストの受難(パッション)を写実主義的技法にこだわって作った映画。むち打ちのシーンからゴルゴタの丘での処刑に至る残酷極まりない壮絶な拷問のシーンの連続は、目を背けたくなると同時にその背けたい気持ちを強引に引き戻すような強烈な吸引力があり、キリスト教徒でない僕でもある種の感動を覚える。
拷問のシーンだけでなく、イエスが処刑されるに至る過程も、民衆の集団心理を利用したユダヤ教ラビの狡猾な誘導、イエスをいたぶることにサディスティックな歓びを隠さないローマ人下級兵士の姿など、写実主義的解釈・姿勢は貫かれていることに感心する。アラム語、ラテン語の台詞も写実的な舞台装置を作る上で効果的に用いられているように思う。
イェルサレムの風景、人びとのくすんだ風景も然り。あたかも受難の時代にタイムスリップしたようなリアリティを映像として提供することに成功している。
肉体的拷問は見るのも痛い。イエスもその痛みを率直に表明する「人」として描かれる。彼が神になったのは、まさにこの受難を経た後であることをメッセージとして伝えているかのよう。台詞も抑制され、そのほとんどは聖書からとってきたもの。伝説的・神話的断片から、ここまでレアリズムにこだわった世界を再現するマニアックなこだわりはすごい。