シェイクスピア・シアター
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平澤智之・木村龍之介・高山健太・三田和慶・八巻一哉・住田敏樹・安田龍司
住川佳寿子・佐々木暁子・木村美保・中森江美・中島江美留・佐藤真琴
川口史・喜久山優子・高間朋美・松田京子・小堀弥恵
- 客演:
松木良方・松本洋平・名越志保・山谷典子・田村勝彦・西岡野人・岡本瑞恵
- 上演時間:二時間五〇分(休憩10分)
- 劇場:六本木 俳優座劇場
- 評価:☆☆☆☆
『ペリクリーズ』はシェイクスピアの四つのロマンス劇のうちの一つ.ロマンス劇では『あらし』と『冬物語』はよく上演されるが,『ペリクリーズ』の上演はかなり珍しいのではないだろうか.何年か前に蜷川演出での上演があったそうだが僕は見ていない.原作は何週間か前に読んだばかり,舞台は今回が初見である.
中東とギリシャ,北アフリカなどの地中海沿岸を舞台に,祖国からの脱出,嵐による遭難,異国での結婚,嵐による家族離散など波瀾万丈,艱難辛苦の人生を送った中東の一国の王ペリクリーズの物語.最後の最後にばらばらであった家族が再会する.
いつもと同じ一切装飾のない黒背景の簡素でストイックな舞台である.台詞は抑制のきいた独特の調子で語られ,舞台を包み込む静謐さは,シェイクスピア・シアター独自の乾燥した演劇空間を作り出す.しかしその抑制ぶりゆえに,前半では調子が平板・単調に感じられ,若干の退屈を感じてしまう.休憩10分を挟んで後半になると,売春宿の場での喜劇的なやりとりをきっかけに,舞台の空気が軽やかになる.もともと物語は,詩人による語り物の枠内で展開される設定になっているが,今回の舞台ではさらにその詩人の外側に,戦前の日本の紙芝居の中の物語というもう一つの枠組みが外側に設置される.もしかするとこの二重枠構造には,家族の離散と外地での艱難,そして再会の切望といった話の展開に,戦時中の日本における家族の離散のイメージを重ねられているのかもしれない.
原作にはない一番外側の枠組みは,最初のほうはなかなか受け入れることができず違和感を覚えたのだが,中盤からはこの枠組み構造にも入り込むことができるようになった.何よりもこの構造は,この芝居が「語り物」という枠内で展開していることを意識させる.夜,眠る前に親に読み聞かされる物語のイメージである.この三重構造は,大昔の遠く離れた異国での冒険譚を読んで想像を膨らませ心躍らせた子供時代へのノスタルジーを喚起させ,幻想譚としての興趣を増加させる.特に幕切れではこの演出は有効に機能し,静かで深い余韻を作り出していた.
ものすごく地味な舞台である.波瀾万丈の物語にもかかわらずとても静かな舞台だった.しかしその静けさは親密な暖かさに満ちていて,充実した観劇の喜びにしっとりとひたることのできた二時間半だった.