E-Pro
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- 原作:ウィリアム・サローヤン「おーい,救けてくれ」より
- 誤意訳・演出:中野成樹
- 装置:沼田憲平
- 音響:竹下亮
- 照明:高橋英哉 他
- 出演:中村彰男,山本郁子,ゴトウタケヒロ,片岡佐知子
- 劇場:江古田ストアハウス
- 上演時間:四十五分
- 満足度:☆☆☆★
ウィリアム・サローヤン〈1〉わが心高原におーい、救けてくれ! (ハヤカワ演劇文庫)
- 作者: ウィリアムサローヤン,William Saroyan,倉橋健
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/01
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 16回
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E-Proは日大芸術学部の演劇研究室が主体になって行っているプロジェクトのようだ.中野成樹の誤意訳による一幕劇の上演で,役者は文学座などに所属するプロ,そして何と無料公演となれば,見に行かずにはおられない.
アメリカの小説家・劇作家であるサローヤンについては名前は聞いた事はあったけれどこれまでその作品を読んだことがなかった.中野成樹誤意訳だとオリジナルテクストをどうデフォルメさせているかが気になる.「よくないこと」の原作である「おーい,救けてくれ」は20ページほどのごく短い一幕ものである.アフォリズムめいた雰囲気もある寓話的な美しい対話劇だった.町の人妻との不倫で監禁された流れ者の男とそこで食事の用意などをする仕事をしている薄幸の若い娘は,対話を通じて恋に落ち,その場からの脱出を夢見る.ラストは悲劇的ではあるが,澄んだ結晶のような力強い美しさ満ちた余韻を残す.「よくないこと」の公演を通じて,サローヤンのこの作品を知ることができただけでも僕にとっては大きな収穫だった.
今回上演された中野成樹版では誤意訳を逸脱した大きな変更が加えられている.登場人物の枠組みは踏襲しているものの,中身はまったく別の作品といってもよいぐらいデフォルメされ,原作の雰囲気とはかなりことなるドライな作品になっていた.
これはこれで悪くないのだけれど,正直なところ,オリジナルのほうがはるかに出来がよく味わい深い.誤意訳というより大幅な翻案によって中野成樹が伝えたかったメッセージがよくわからなかった.誤意訳としては昨秋見たシングの『西の国のプレイボーイ』を土台とした『遊び半分』のほうがよくできているように思った.『遊び半分』では改変にもかかわらず,いやむしろ誤意訳によって,かえってオリジナル戯曲が持っていた味わいの核が明瞭になっていたような気がしたのだけれど,『よくないこと』ではオリジナルの味わいはまったく別のものに置き換わってしまった感じがする.
僕の手元にあるのは早川演劇文庫版ではなく,1969年に初版が発行された加藤道夫,倉橋健訳『ウィリアム・サローヤン戯曲集』(早川書房)である.「おーい,救けてくれ!」以外に二編の長編戯曲(「我が心高原に」「君が人生の時」)と一編の一幕もの(「夕空晴れて」)が収録されている.一幕もの二編しかまだ読んでいないがいずれも傑作だと思った.訳文も1969年のものとはいえ,滑らかで自然でとても優れた戯曲訳だと思う.