閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

書籍

性と暴力のアメリカ:理念先行国家の矛盾と苦悶

鈴木透(中公新書,2006年) 評価:☆☆☆☆ - アメリカでは性と暴力に関する問題が常に大きな社会争点となる.そしてこの二つの問題はしばしばアメリカの頑固な保守性,前近代性を象徴的に露呈させる. 著者は性と暴力の「特異国」としてのアメリカの問題を,建…

演劇のことば

平田オリザ(岩波書店,2004年) 評価:☆☆☆☆ - 「ことばのために」というシリーズの中の一冊.内容は近代日本演劇史概説である.1924年の築地小劇場開設を中心に近代日本演劇の流れがコンパクトにかつ非常にわかりやすい文章で記述されている.日本近代演劇…

新編 軟弱者の言い分

小谷野敦(ちくま文庫,2006年) 評価:☆☆☆★ - 2001年に出た単行本版は発売時に購入して読んでいたが,新たに文章をいくつか加えたということで文庫版も購入する.60ページ弱の文章が「軟弱者2006年」という章立てのもと加わっていた. 小谷野氏が,人文系の…

芸術立国論

平田オリザ(集英社新書,2001年) 評価:☆☆☆ - 芸術文化政策,アートマネージメントへの提言集.芸術の「公共財」としての役割を協調し,地域特有の芸術文化の創出は地域社会への帰属感への誇りをもたらすと著者は主張する.しかしこの著作での著者の主張は…

列車ダイヤの話

阪田貞之(中公新書,1964年) 評価:☆☆☆☆ - マイミクの一人の絶賛ぶりにで興味を引かれ図書館から借りてきた.自身は鉄道マニアではないので普段ならまず手に取らない主題の本である.列車ダイヤといえば,ホームへの列車到着時刻の微妙な際をトリックとし…

出雲の阿国

有吉佐和子(中公文庫,1974年) 評価:☆☆☆☆★ - 歌舞伎の創始者とされる伝説的な舞踊芸能者である「出雲の阿国」を題材とする戯曲・小説は少なくないが*1,有吉佐和子のこの作品は数ある「阿国」ものの中でももっとも人口に膾炙している作品であり,有吉の代…

現実入門

穂村弘(光文社,2005年) 評価:☆☆☆★ - 著者はblogやmixiではやった「人生の経験値」リストの元となるエッセイを書いた人.歌人,エッセイスト,翻訳家として多くの著書・翻訳絵本がある. 『現実入門』の中で,彼の「経験値」リストで未経験となっている項…

藤村のパリ

河盛好蔵(新潮文庫,2000年) 評価:☆☆☆☆ - 単行本は1997年に発刊.単行本のもとになったのは1986年から1989年の三年間に断続的に『新潮』に断続的に掲載された文章である.著者は2000年に98歳の高齢で亡くなっている. タイトルにあるとおり島崎藤村の1913…

「世界」とはいやなものである:東アジア現代史の旅

関川夏央(集英社文庫,2006年) 評価:☆☆☆★ - 1980年代末から2003年にかけて著者が発表した東アジア(韓国,北朝鮮についての言及が多い)についての論考のアンソロジー.著者がまだ青年の雰囲気を残していた頃の著作『ソウルの練習問題』にある感傷的なト…

女流:林芙美子と有吉佐和子

関川夏央(集英社,2006年) 評価:☆☆☆☆★ - その人並み外れて濃密で激しい生き様ゆえに燃え尽きたかのように,老年に達する前に死んだ二人の女性作家の評伝.その作風はかなりことなるのだが,この著作で紹介・想起されるこの二人の女流作家にまつわる逸話の…

演技と演出

平田オリザ(講談社現代新書,2004年) 評価:☆☆☆☆☆ - 「静かな演劇」と呼ばれる日常的振る舞いの演劇的再現を新鮮な写実主義を用いて行うスタイルを作り上げた平田オリザによる演出・演技論.序章を含め七章からなる.作者が演劇ワークショップなどで話して…

パリ時間旅行

鹿島茂(中公文庫,1999年) 評価:☆☆☆★ - アーケード街であるパッサージュ,馬車,匂いと清潔さ,照明などのトピックを通して,十九世紀,二十世紀初頭の過去のパリへと誘う.

文壇アイドル論

斎藤美奈子(文春文庫,2006年) 評価:☆☆☆☆ - 80年代から90年代にかけて一世を風靡した作家八人を論じる.対象となった作家は村上春樹,俵万智,吉本ばなな,林真理子,上野千鶴子,立花隆,村上龍,田中康夫.個別の作家論を通し,バブル経済期からバブル…

白樺たちの大正

関川夏央(文藝春秋,2003年) 評価:☆☆☆☆ - 武者小路実篤の「新しき村」という理想主義的コミュニティの理想と現実を,大正という時代の精神的風景とともに描く.

かぶき入門

郡司正勝(岩波書店,2006年[岩波現代文庫版]) 評価:☆☆☆☆ - 初版は1954年刊行なのでもう半世紀も前になる.著者は早稲田大学で教鞭をとった演劇学者で本書の内容も入門書とはいえかなり固めの内容である.大項目主義の超大型百科事典の「歌舞伎」の項目…

なぜ悪人を殺してはいけないのか:反時代的考察

小谷野敦(新曜社,2006年) 評価:☆☆☆☆ - 三部構成.第一部では「復讐」という観点から死刑制度の是非を考察する.復讐「論」というよりは,トピックに関して様々な観点から自由に述べたエッセイ.著者は死刑容認の立場で,死刑反対論者の欺瞞を指摘する.…

黄泉がえり

梶尾真治(新潮文庫,2002年) 評価:☆☆☆☆ - 『クロノス・ジョウンターの伝説』というタイムマシンものの恋愛小説の傑作を読んでいたにもかかわらず,語呂合わせの題名(作品中の記述では「蘇り」の語源だということだが)と青少年向きSF風の題材に,何と…

半落ち

横山秀夫(講談社文庫,2005年) 評価:☆☆☆★ - 最後に明らかになる「半落ち」の理由にひねりがなく,驚きがない.その動機があまりにまっとうすぎて「やられた」って感覚がないのだ. 感動的なラストであるかもしれないが意外性に乏しく,推理小説としての醍…

手鎖心中

井上ひさし(文春文庫、1975年) ISBN:4167111039 評価:☆☆☆☆★ - 1972年の直木賞受賞作『手鎖心中』と受賞後第一作『江戸の夕立ち』の二編が所収されている。 どちらもその破格の洒落っ気ゆえに最終的には身を滅ぼすことになる道楽町人を描いた小説。『手鎖…

オペラの運命:十九世紀を魅了した「一夜の夢」

岡田暁生(中公新書,2001年) 評価:☆☆☆☆☆ - バロックの王宮文化の絢爛を受け継いだブルジョワ階級の土壌の中で発展し,20世紀の大衆社会の到来とともにその歴史的使命を終えた音楽劇「オペラ」の興亡を社会史的観点から読み解く概説書.オペラというジャ…

日本とフランス 二つの民主主義:不平等か,不自由か

薬師院仁志(光文社新書,2006年) 評価:☆☆☆☆ - 「国際社会」といっても実質的にアメリカのみが世界基準として語られることが多い日本は視野狭窄に陥りがちであり,アメリカ以外にも世界には多様な軸が存在することをもっと認識し,自己像をさらに相対化し…

花石物語

井上ひさし(文春文庫,1983年) 評価:☆☆☆☆ - 自伝的物語.ひさしが東京生活でのカルチャーショックゆえに大学を休学し,母が働く釜石(花石)に何年か戻っていた時代を小説化. 鉄工所景気で活気ある花石の町で,地に足のついた生活を送る住民たちとの交流…

オリガ・モリソヴナの反語法

米原万里(集英社文庫,2005年) 評価:☆☆☆☆☆ - 先々月,ガンで死んだロシア語通訳者米原万里の長編小説.単行本は2002年に出版され,ドゥ・マゴ賞を受賞している.著者の死にあたり,文庫本が再刷されたようで立ち寄った書店で平積みされていた.1960年にプ…

キミは他人に鼻毛が出ていますよと言えるか

北尾トロ(幻冬舎文庫,2006年) 評価:☆☆☆☆☆ - 日常でふと感じるような些細なひっかかりにこだわることで,日常の裏側にある未知の世界の闇へ導いてくれる北尾ルポルタージュの傑作.2001年に出た鉄人社刊行の単行本版を僕は発刊当時に読んでいたが,久々に…

ジョシィ・スミスのおはなし

作:マグダレン・ナブ Magdalen Nabb 訳:立石めぐみ 絵:垂石眞子 出版社:福音館書店 出版年:1997年 評価:☆☆☆☆★ - 五歳から小学校低学年向きの童話.主人公の女の子,ジョシィ・スミスの年齢は小学校1,2年に設定されている.40ページほどのお話三編を…

冠婚葬祭のひみつ

斎藤美奈子(岩波新書,2006年) 評価:☆☆☆★ - 意地悪で嘲弄的だが,歯切れのよい文体が心地よい文芸評論家,斎藤美奈子による現代の冠婚葬祭事情の分析. 各70ページほどの分量の三章構成.第一章では明治以来の冠婚葬祭のありかたの変遷をたどる.第二章は…

パリ感覚

渡辺守章(岩波現代文庫,2006年) 評価:☆☆☆☆ - パリという場から想起される様々なトピックを,連想力の赴くままにといった感じで,日常的断面から審美的・哲学的内容まで軽快に行き来するエッセイ.1985年8月にシリーズ『旅とトポスの精神史』の一冊として…

臓器農場

帚木蓬生(新潮文庫,1996年) 評価:☆☆☆★ - 流産もしくは堕胎された奇形胎児からの臓器移植問題をテーマとするが,実質的には看護婦を主人公とするミステリ・冒険小説. エンターテイメント小説としてはよく出来ていて,展開もスピードと変化があって面白い…

十二人の手紙

井上ひさし(中公文庫、1980年) 十二人の手紙 (中公文庫)作者: 井上ひさし出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 1980/04/10メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 1回この商品を含むブログ (12件) を見る 評価:☆☆☆☆ - 書簡体短編小説集。タイトル通り、書簡…

浅草鳥越あずま床

井上ひさし(新潮文庫,1981年) 浅草鳥越あずま床 (新潮文庫 い 14-8)作者: 井上ひさし出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1981/07メディア: 文庫 クリック: 1回この商品を含むブログ (2件) を見る 評価:☆☆☆☆ - 浅草の下町の商店街に住む,小学校同級の老人衆…