閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

書籍

非道,行ずべからず

松井今朝子(集英社文庫,2005年) 評価:☆☆☆☆★ - 文庫版で539ページ.江戸の歌舞伎小屋,中村座で起こった連続殺人事件を巡る長編推理小説.名探偵が鮮やかに謎解きをするわけではない.謎解きではなく事件の背景にある当時の歌舞伎役者とその周辺の演劇人…

議論術速成法:新しいトピカ

香西秀信(ちくま新書,2000年) 評価:☆☆☆☆ - トピカとは議論のための発想の型(トポス)を集積したもの.アリストテレス以来の「修辞学」の伝統の蓄積を,現行の実際の議論にいかに適応しうるかということを示した「実用書」である.作者自身が作り出した…

奴の小万と呼ばれた女

http://www.kesako.jp/kesako_archives/default/30.html 松井今朝子(講談社文庫,2003年) 評価:☆☆☆☆ - 「奴の小万」という人物と彼女を題材とする文芸作品については以下のページに詳しい. http://park22.wakwak.com/~kozu5-2/hiroba-05/04.07.23noda.ht…

香華

有吉佐和子(新潮文庫,1965年) 評価:☆☆☆☆ - 単行本初版,中央公論社,昭和37年. 母親に裏切られ,捨てられながらも,世間の荒波に抗し健気に力強く生きる女性の成長の過程を描く教養小説.彼女が芸者として過ごした明治末期から大正にかけての花柳界の詳…

暗渠の宿

西村賢太(新潮社,2006年) 評価:☆☆☆☆ - 「けがれなき酒のへど」,「暗渠の宿」の二編を収録.158ページ. 極めて悪趣味な露悪と自虐に満ちた反時代的私小説.破滅型人生への文学的自己陶酔に満ちた内容は,現代においては純文学的というよりはむしろつっ…

天窓のある家

篠田節子(新潮文庫,2006年) 評価:☆☆☆★ - 九編の小説を収録する短編集.中年世代の不安,特に家族の問題を女性の視点から描いた小説が多いが,いかにも篠田節子らしいSF的な発想の作品も含まれる.僕が読んでいる現役の娯楽小説の書き手の中では,篠田節…

仲蔵狂乱

松井今朝子(講談社文庫,2001年) 評価:☆☆☆☆ - 江戸時代田沼意次の時代,歌舞伎役者としては最下層の地位(稲荷町)から,役者の頂点である名題まで成り上がった実在の歌舞伎役者,中村仲蔵の伝記小説.幼少期から死までが時系列に沿って語られる.当時の…

地唄・三婆

有吉佐和子(講談社文芸文庫、2002年) 評価:☆☆☆☆ - なんとなく有吉佐和子。「地唄」(1956)「美っつい庵主さん」(1958)「江口の里」(1959)「三婆」(1961)「孟姜女考」(1961)の著者の比較的初期に書かれた五編の短編を収める。「地唄」は伝統芸能…

おじさんはなぜ時代小説が好きか

関川夏央(岩波書店、2006年) 評価:☆☆☆☆ - 「ことばのために」と称されるシリーズの中の一冊。岩波書店の若手編集者を相手に行ったレクチャーの原稿をまとめたもの。七章の構成で山本周五郎、吉川英治、司馬遼太郎、藤沢周平、山田風太郎、長谷川伸・村上…

東京初台演劇夜話

大笹吉雄(新水社,2006年) 評価:☆☆☆☆★ - 新国立劇場での演劇公演のパンフレット上の連載をまとめたもの.1997年の新国立劇場第一回演劇公演『紙屋町さくらホテル』(井上ひさし作)から2006年五月の『やわらかい服を着て』(永井愛作)まで七七回分の連載…

シェイクスピアの驚異の成功物語

スティーヴン・グリーンブラット/河合祥一郎訳(白水社,2006年) 評価:☆☆☆★ - GREENBLATT (Stephen), Will in the World: How Shakespeare Became Shakespeare, New York, Norton, 2004. 原著はピュリツァー賞ほか数多くの賞を受賞したシェイクスピアの…

演劇は道具だ

宮沢章夫(理論社,2006年) 評価:☆☆☆★ - 170ページ,上下に空白をたっぷりとったレイアウト,かなり大きめの活字. 漢字にはルビが振ってあるので小学生でも読もうと思えば読むことができる.平易な表現で書かれているのでもしかすると内容の理解もかなり…

12歳の大人計画:課外授業 ようこそ先輩

松尾スズキ(文藝春秋,2006年) 評価:☆☆☆★ - 松尾スズキが北九州にある母校の小学校六年生を相手に行った二日間の授業の記録.授業科目は「大人とは何だ?」である. 学校での授業という縛りはかなり強烈だったようで,松尾の常識人としてのまっとうさが強…

ロゴスの名はロゴス

呉智英(双葉社、2001年) 評価:☆☆☆☆ - たぶん再読のはずだが内容はだいぶ忘れていた。「ことばエッセイ」である。ちまたにはびこる様々なことばの使い方の間違いを指摘すると同時に、関連する表現などについての蘊蓄を提示する。類書は無数にあるが、呉智…

料理人

料理人 (ハヤカワ文庫 NV 11)作者: ハリー・クレッシング,一ノ瀬直二出版社/メーカー: 早川書房発売日: 1972/02メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 93回この商品を含むブログ (45件) を見る ハリー・クレッシング著/一ノ瀬直二訳(ハヤカワ文庫、1972年) …

空中庭園

角田光代(文春文庫、2005年) 評価:☆☆☆☆ - 先日見たDVD版が面白かったので、原作にも手を伸ばす。映画版では主人公を妻に設定し、彼女の屈折が家族の欺の核となっていた。彼女とその母親の葛藤がドラマの中心となっていたのだが、原作は六章構成で各章で語…

愛がなんだ

角田光代(角川文庫、2006年) 評価:☆☆☆★ - こちらは『空中庭園』より素材が軽やかで娯楽性が高い。もてない片思い女の一途ではあるけれど、無様で間抜けな恋の姿を描く。そして彼女の献身的愛は、おそらくその献身性ゆえに報われることはないのだ。『だめ…

現代演劇

http://www.shibundo.co.jp/cgi-bin/menu.cgi?ISBN=037181268 今村忠純 編『現代演劇』、《国文学解釈と鑑賞》別冊、東京、至文堂、2006年。 - 戦後日本の現代演劇を巡る(きまじめな)論考が多数収録されている。目次はリンク先で参照可能。「海外演劇と現…

クワイエット ルームにようこそ

松尾スズキ(文藝春秋、2005年) 評価:☆☆☆☆ - 138ページの中編。芥川賞候補作。 精神病院もの。主人公の女性の激動的な人生のディテイルの作り方がうまい。導入の描写は極めてグロテスクかつ独創的。 精神病院を舞台とする小説、狂人の生態を描いている小説…

どうで死ぬ身の一踊り

西村賢太(講談社、2006年) 評価:☆☆☆☆★ - 「墓前生活」「どうで死ぬ身の一踊り」「一夜」の三編を収録。石川県出身の破滅型の作家、藤沢清造(1889―1932)に心酔する著者が、藤沢清造の全集刊行準備作業と、その傍らの刹那的日常を露悪的に描き出す私小説…

アメリカ人が作った『Shall we ダンス?』

周防正行(太田出版、2005年) 評価:☆☆☆★ - 似たようなタイトルの本を周防は何年か前に出している。その本(『『Shall we ダンス?』アメリカを行く』)では、オリジナル版『Shall we ダンス?』が全米公演される際に周防が参加したキャンペーン活動の報告…

透明人間の告白

作:H.F. Saint 翻訳:高見浩 出版年:1992年(原作は1987年) 評価:☆☆☆★ - SFを含む海外の作家の娯楽小説はごくまれにしか読まない。この本はどこかで紹介されていたのを目にして、Amazonで検索したら古本が1円で売っていたのだ。実際に支払う金額は1円+送…

二人阿国

皆川博子(新潮社,1988年) 評価:☆☆☆☆★ - 昨年秋に有吉佐和子の『阿国』を大変面白く読み,このお正月には有吉原作をもとにした津上忠脚色の前進座の舞台を見た.三月に新橋演舞場で1990年に初演されて以来再演を重ねている栗山民也演出,木の実なな主演の…

異都憧憬 日本人のパリ

今橋映子(平凡社,〈平凡社ライブラリー〉,2001年) 評価:☆☆☆ - 初版は1993年に柏書房から出版され,サントリー学芸賞,渋沢・クローデル特別賞などを受賞した著作.著者の博士学位請求論文がもとになっている. 高村光太郎,島崎藤村,金子光晴の三人の…

フランス中世文学を学ぶ人のために

原野昇編(世界思想社,2007年) 評価:☆☆☆☆ - 200冊を越えるという世界思想社の「〜を学ぶ人のために」シリーズの新刊.本文242ページ,付録54ページ.20人の執筆者はおおむね現在の日本におけるフランス中世文学の第一人者をそろえているといえ,研究入門…

小さき者へ

重松清(新潮文庫,2006年) 評価:☆☆☆ - 子供を語り手とする一人称小説の短編集.重松清はだんだん説教臭くなるというか,お話づくりのあざとさが鼻につくようになる.今どきのガキというのは本当に彼の小説に出てくるような小生意気なことを考えたり言った…

フリーターにとって「自由」とは何か

杉田俊介(人文書院,2005年) 評価:☆☆☆☆ - チェルフィッチュの岡田利規が『エンジョイ』の「原作」として挙げていた著作.著者の杉田は大学卒業後,アルバイトを転々とした後,現在はヘルパーとして障害者福祉の仕事を行っている人物. フリーターという現…

話し言葉の日本語

井上ひさし,平田オリザ(小学館,2003年) 評価:☆☆☆☆ - 小学館が出している演劇雑誌『せりふの時代』に連載されていた対談記事を加筆のうえまとめた単行本.1996年から2001年に行われた13の対談が収録される.世代は異なるものの,現代日本を代…

地図を創る旅:青年団と私の履歴書

平田オリザ(白水社,2004年) 評価:☆☆☆★ - ここしばらく平田オリザ漬け.1982年に国際基督教大学に入学し,学内劇団として青年団を立ち上げ,現代口語演劇のスタイルを完成させ,それが世間に認められるようになった1992年頃までの十年間を記す自叙伝.平…

早すぎる自叙伝 えり子の冒険

渡辺えり子(小学館,2003年) 評価:☆☆☆☆ - 聞き書きもしくは聞き書き風のスタイルで書いたのか.「です,ます」の口語体でときおり(笑)などが入る読みやすいエッセイ文体での自叙伝.直情径行ということばが似つかわしい渡辺えり子の言動の数々は,良い…