閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ROMMY 越境者の夢

歌野晶午(講談社文庫、1998年)
評価:☆☆☆★

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面白い。読みやすい。よくできている。
架空の女性歌手を巡る物語。小説中の女性歌手は日本人だがビヨークなんかを連想させる。
達者な文章と練られた構成で読ませるミステリ。伏線の置き方も巧みである。ただこの作家の「だまし方」はちょっとずるいなぁと思ってしまうところがある。手品を見た後にあとで種明かしをされてしまうような感覚というか。「謎」のキーとなる部分について欠落した表現で一度語った後に、「実は○○だった」といった隠していた仕掛けが明らかにされるパターン。

この小説ではいろいろな小道具を使って一人のアイドルを作り出しているけれど、リアリティのある架空の芸術家を作るのはかなり難しいことがよくわかる。現実の人物をモデルにした「もどき」になり、そのモデル自体がメディアを通した虚像であるために、小説中の人物はますます血の通っていない作り物の印象がのこってしまう。
この作家は周到で構成はよく考えられているけれども、仕掛けがどこか安っぽく、物語が軽い。この軽さはエンターテイメント小説としては利点なのかもしれないけれども、今ひとつ物足りなさも感じる。面白い、よくできているけど、薄味。