- 作:別役 実
- 演出:藤原新平
- 音楽:稲本 響
- 美術:朝倉 摂
- 照明:沢田祐二
- 衣裳:原 まさみ
- 音響:原島正治
- 振付:森田守恒
- 演出助手:北 則昭
- 舞台監督:北条 孝/加藤 高
- 出演:毬谷友子、池田有希子、曽世海司、秋山エリサ、金内喜久夫、小林勝也、富沢亜古
- 演奏:チェロ:江口 心一、ギター:平岡 雄一郎、クラリネット:稲本 渡、ピアノ:築田 佳奈、ヒューマンビートボックス:MaL
- 劇場:北千住 シアター1010
- 評価:☆☆☆☆
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娘と一緒に見に行く。信仰の対象である毬谷友子様をできるだけ近くから拝むために、発売早々にチケットを取ったので座席は前から3列目中央という好位置だった。
青い紗幕を通して立体的に映し出される砂漠の月夜の舞台美術の美しさがとても印象的だった。それと生演奏の音楽も。作品はサンテグジュペリの『星の王子さま』の設定に基づく自由な創作だった。王子さま、王子さまの恋人のバラの花、王子さまの対話の相手である飛行士といった主要な登場人物といくつかのエピソードは原作から借りたものだが、飛行士のフィアンセ、飛行士の父母、駅長といった原作にはない人物も導入されている。
星の王子さまの地球漂着のせいで、平行世界が砂漠上で交錯して時空間が混乱してしまう。それぞれの属する世界で、離れ離れとなった飛行士とそのフィアンセ、そして遭難した飛行士を探して砂漠をさまよう飛行士の両親たちは、星の王子さまの砂漠で邂逅するが、互いの世界が異なることに起因する認識のずれに戸惑いを覚える。星の王子さまは星の王子さまで、恋人であるバラの花との気持ちのすれ違いに思い悩んでいる。最終的には互いに抱いている愛情とそれぞれの思い出をすりあわせることによって、認識のずれに基づく感情の溝は埋まり、調和のある世界が訪れる。しかしその調和の世界はどことなく物悲しい。
オリジナルの美しい音楽に彩られた寓意に富む、幻想的なナンセンス劇だった。サンテグジュペリ原作に対する別役実の誠意あるオマージュになっていたように僕は思った。
舞台右手にはピアノ、アコースティック・ギター、クラリネット、チェロ、そして人間打楽器(マイクを使って口で打楽器音を担当)のバンドが常駐して、生演奏を聞かせる。稲本響作曲のオリジナル音楽は物悲しさもどこかに感じる親しみやすいメロディーで僕は気に入った。毬谷友子は言うまでもないが、秋山エリサも相当な歌唱力だった。伸びのある素直な歌声でしっとりと聞かせる。
職業飛行士でもあったサンテグジュペリは1943年7月31日にコルシカ島の基地から飛び立ち、そのまま消息をたった。今日は彼の「命日」にあたるということで、終演後、作曲者のピアノ演奏を中心としたミニ・ライブがあった。
客席は一階後方に空席が目立った。観客層も子供連れとおばさんが目立つちょっと独特な感じで、(コンサート付!の)ミュージカルであったにもかかわらず、劇場全体の熱さが乏しかったのを残念に思った。
毬谷友子の役者力はすばらしいのだけれど、特異すぎると感じられることもある。今日の王子さまはとても可愛らしかったのだけれど、ちょっと暴走気味かなって思うところもあった。個性ゆえに突出してしまい、全体のバランスを崩しかねないような。
飛行士役の曽世海司はなんかどうってことない、ぼーっと存在いるって感じがかえってよかった。