閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

西の国の伊達男

劇団俳小 第34回本公演
http://haishou.co.jp/backnumber/playboy/index.html

  • 作:ジョン・ミリトン・シング
  • 訳:大場建治
  • 演出:入谷俊一
  • 装置:内山勉
  • 照明:加藤一郎
  • 音響:射場重明
  • 音楽:平岩佐和子
  • 衣装:五十嵐博子
  • 出演:吉野悠我(officeTALK)、若井なおみ(俳優座)、斉藤真、堀越健次、松永陽三、大川原直太、大久保卓洋、今井鞠子、須藤ひろい、吉田恭子、大多和芳恵、手塚耕一、原口直也、岡田萌、佐伯翠
  • 上演時間:2時間15分
  • 劇場:池袋 東京芸術劇場小ホール
  • 評価:☆☆☆★
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20世紀初頭のアイルランドの作家,シングの代表作である『西の国の伊達男』The Playboy of the Western Worldの公演を観るのはこの一年半に三回目になる.最初はアイルランドのゴールウェイの劇団による本場の「ホンモノ」による上演,二回目は中野茂樹+ フランケンズの誤意訳版(とても優れた翻案になっていた).三度目の今日の公演は新劇版というべきか.劇団俳小の公演を観るのは今回が初めてだった.

俳小の舞台は典型的な新劇風のものだった.「芝居くさい」誇張を加えた演技演出はちょっと気恥ずかしさを感じさせるようなところもあり,僕の好みのものではなかったけれど,台詞のことばは明瞭に伝えられていて,作品の世界はきっちりと再現されていた.ヒロインのペギーンを演じた俳優座の若井なおみの演技がとても達者だった.気の強い田舎娘を演じた彼女の人物造形には説得力があり,テクストを丁寧に読み込んで役作りをしているような感じがした.

翻訳劇には,どんなに自然な訳であっても,日本人が日本で演じている限りどこかに不自然な部分が残ることが多い.今回の上演台本の訳者の大場健冶氏がパンフレット解説で書いていたが,台詞を平易にわかりやすく語るだけでなく,現代的な舞台表現の枠組みのなかで語りを超えてことばを美しく「歌う」ための工夫を,翻訳劇の分野でももっと模索されてもよいように思う。

音楽はアイルランド民謡風のものを使っていたが、シンセサイザーの音色がとても安っぽくて、音楽がかかるたびに興ざめした気分になった.


以下,作品の概要を記しておく.

世界の西のはてのような田舎の単調な生活に村の人間はあきあきしている.居酒屋の一人娘,ペギーンには同じ村に住む羊のようにおとなしい農夫との結婚が決まっているが,彼女に浮かれた気分はまったくない.むしろこの村で同じ村の退屈な男とこれからも暮らしていくことに絶望している.ペギーンの居酒屋にある晩,よその土地からやってきた見知らぬ若い男がやってくる.その男は自分の父親を鋤でたたき殺したあと,自分の村を逃げ出してきたという.父親殺しという大きな罪を犯したというその男の告白に,居酒屋にいた人間たちはどどめく.この若者は単調で退屈なこの西のはての村の生活に非日常の興奮をもたらす英雄として祭り上げられる.ペギーンもクリスティと名乗るこの男に「白馬の王子」を見る.
近所に住む後家や村の娘たちもこの男の話を聞きにやってくる.父親殺しの話をせがまれるたびに,男の話にはどんどん誇張が加えられ,最初は訥弁でおどおどしていたこの男の態度にも自信がみなぎるようになる.ペギーンはすっかりこの男の話しぶりに魅了されてしまう.彼女は村の婚約者を捨て,クリスティと結婚することを決意する.
ところがクリスティが殺したと思い込んでいた彼の父親は実は生きていたのだ.頭に包帯を巻いてクリスティの父はペギーンの居酒屋に息子を探しにやってきた.そしてこの村の英雄となったクリスティが,実は気弱で愚鈍な田舎男に過ぎないことが暴露される.ペギーンは激怒してクリスティと父親を居酒屋から追い出そうとする.クリスティも逆上して再び父親を鋤で打ち据える.しかしこの二度目の「父親殺し」によってもクリスティの名誉は回復されなかった.それどころか正真正銘の殺人者として村人たちによって官憲に引き渡されそうになる.クリスティはいまや村人たちにとって単なる厄介者になってしまったのだ.ペギーンもクリスティにはすっかり愛想を尽かしている.
そこにクリスティの父親が戻ってくる.二度目の打撃も彼を死に至らしめることはできなかったのだ.クリスティの父は自分の息子が縄でしばられているのを見て激怒する.村人に縄をほどかせると,この親子はこの西の村の人々を毒づいて,村から出て行った.激怒の発作の鎮まったペギーンは居酒屋で自分の身の不幸を嘆き,泣き声をあげる.